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「どうだ、三蔵の塩梅(あんばい)は?」
勢いよく入ってきた具足姿の円久尼が声をはりあげる。
と、三蔵が眼を開けているのに気づいた。
「おお、意識をとり戻したか。重畳、重畳」
円久尼はこちらの近くにきて腰を下ろし快活に笑う。
「不甲斐ない姿をお見せし、まことに――」
「よいよい。むしろ、褒めてつかわす。よくぞ、御屋形様を守った」
心配をかけたことを謝罪しようとする三蔵の言葉を、彼女は明るくさえぎった。
そこまでいったところで、円久尼は周囲に視線を巡らし片眉をあげる。
「どうした、おぬしら? そのような、物憂げな顔をして」
彼女の問いかけに、三蔵たちは困惑した。
まさか、刺客の宰領が自分たちの師匠だとは告げられない、そんな思いを抱いたのだ。
が、
「ええい、答えぬかッ、はっきりとせぬ奴らだ!」
女武弁で気性の荒い円久尼は、三蔵たちに雷を落とす。
まるで子供に返ってしまったように、彼らは首をすくめた。
――円久尼が燃えるような瞳でその場のひとりひとりをにらみつけていく。
……その迫力に負け三蔵は、「実は――」と師父のことを明かした。
「――ふむ」
話を聞き終えた円久尼は、ひとつ鼻を鳴らす。
「おぬしたち、そのようなことで思い悩んでおったのか?」
「なっ……」
まるでたいした問題ではない、といいたげな彼女のせりふに三蔵たちは眼を剥いた。
勢いよく入ってきた具足姿の円久尼が声をはりあげる。
と、三蔵が眼を開けているのに気づいた。
「おお、意識をとり戻したか。重畳、重畳」
円久尼はこちらの近くにきて腰を下ろし快活に笑う。
「不甲斐ない姿をお見せし、まことに――」
「よいよい。むしろ、褒めてつかわす。よくぞ、御屋形様を守った」
心配をかけたことを謝罪しようとする三蔵の言葉を、彼女は明るくさえぎった。
そこまでいったところで、円久尼は周囲に視線を巡らし片眉をあげる。
「どうした、おぬしら? そのような、物憂げな顔をして」
彼女の問いかけに、三蔵たちは困惑した。
まさか、刺客の宰領が自分たちの師匠だとは告げられない、そんな思いを抱いたのだ。
が、
「ええい、答えぬかッ、はっきりとせぬ奴らだ!」
女武弁で気性の荒い円久尼は、三蔵たちに雷を落とす。
まるで子供に返ってしまったように、彼らは首をすくめた。
――円久尼が燃えるような瞳でその場のひとりひとりをにらみつけていく。
……その迫力に負け三蔵は、「実は――」と師父のことを明かした。
「――ふむ」
話を聞き終えた円久尼は、ひとつ鼻を鳴らす。
「おぬしたち、そのようなことで思い悩んでおったのか?」
「なっ……」
まるでたいした問題ではない、といいたげな彼女のせりふに三蔵たちは眼を剥いた。
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