直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

66

「おい、大変だぜ！」
　悟空が血相を変えて浜で修行している三蔵たちのもとへ駆け込んでくる。
「どうした？」と三蔵が尋ねると、
「村に捕吏が来やがった！」
　先に倍する声で彼は叫んだ。
「捕吏が……？」
　なぜ、と三蔵は眉をひそめる。確かに己らは師の兵器（武器）を受け継いでいるため法に触れている――が、そのことがどうして連中に漏れたのか……。
「村の連中が俺たちを売りやがったんだ！」
　こちらの表情の変化から胸の内を読み取った悟空が眦を吊り上げて理由を明かした。
「俺たちに復讐されるのが怖くて、連中――俺たちを“倭寇”として届け出やがったんだッ！」
「――っ、そういうことか」
　三蔵は憤怒、みずからを虐げていたとはいえ親に裏切られた悲しみ、それらの感情がない混ぜになった思いを抱く。
　だが、一方で頭の片隅の冷静な部分は集落の住人が己らを倭寇として密告した気持ちを理解する――散々、今まで虐げてきた、そんな相手が卓越した武術の腕前に達しさらに高みを目指している……そんな状況では報復を恐れるのも無理はない。もっとも、三蔵としてはそれを許す気持ちはないが。
「どうする？」と沙悟浄が切れ長の眼でこちらを見た。
「――決まってるだろ、戦う」
　宰領の三蔵の言葉に、少なからず狼狽(うろた)えていた朋友たちの表情が引き締まり瞳に闘志が宿る。
「こんなときに戦わずして、どうする？」
「そうだな」「ああ」「返り討ちにしてやろうぜ！」などとそれに朋友たちも同意した。
「よし、悟空、紅孩児、村から投網を掻き集めて来い」
　三蔵の指示に、一瞬二人は怪訝な顔をするも、
「分かったぜ」「任せてくれ！」
　彼らは疾風(はやて)と化して村へ向かった。