直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「――軍兵のなかに。それも、鋭いけどすごく気配が希薄」
 紅孩児がひとつの方向に視線を固定して告げる。
 ……その方角は、本陣がある場所と重なっていた。
 鋭い、気配が希薄――三蔵は胸のうちで紅孩児の言葉をくり返す。
「刺客か――」
 三蔵の言葉に、仲間たちの表情が引き締まった。
「円久尼殿」と彼は賢兼がいない今、彼らの宰領である彼女に声をかける。
「いかがした?」
「紅孩児が刺客の殺気に勘づき申した」
 怪訝な顔の円久尼に、三蔵はなるだけ声を低くして告げた。
「なに、刺客?」
 こちらの気づかいにこたえ、聞き返す彼女も声量を抑える。
「何卒、我らに刺客の始末をお任せいただきたい」
「いかさまな。よかろう、ぬかるな――」
 三蔵の申し出に、円久尼は即座に許可を出した。
 それを受け、彼女は仲間たちに眼顔で「行くぞ」と伝える。
 仲間たちはそれぞれうなずく――そして彼らはその場から脛(すね)を飛ばして駆け出した。

 ――三蔵たちが本陣の近くにはせ参じたとき、組頭が率いる平士(ひらし)たちが幔幕(まんまく)の側に歩を進めていた。
 各々、騎馬武者に許された面具で顔をおおっている……つまりは、刺客が龍造寺方の軍兵をよそおって本陣に近づくのにはおあつらえ向きの格好だ。
「あいつらか?」三蔵は眼で紅孩児に問いかける。
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