直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 身にまとう空気が変わったせいで、また、甚助という大人の眼を警戒して悪童たちはしばらく三蔵たちに手を出してこなかった。
 だが、ある日、ついに奴輩は甚助が庵を空けた隙をついて砂浜で稽古に精を出していた三蔵たちに喧嘩を売ってきた――そのときが初めてだったが、甚助はふらりと住処(すみか)を離れて一月(ひとつき)や二月(ふたつき)戻ってこないことが度々あったのだ。

「今日は、お前たちを守ってくれるあいつはいねーぞ!」
 砂浜で三蔵たちを取り囲む悪童たちの頭格(かしら)、餓鬼大将がいやらしい笑みを浮かべる。
「今日も誰も助けてくれねーぞ!」
「最近、生意気なんだよ!」
 それに手下たちが追従した。
 三蔵たちは、師父(師匠)――甚助に出会う以前に戻ってしまったように、その顔に翳(かげ)りが戻っている。
 彼らを支えていた自信が霧散してしまい、小動物のようなおびえた眼で周囲をうかがっている。
 ただ、そのなかでひとりだけ、以前からひるむことなく向かっていた悟空だけは対手をにらみつけていた。
 兵法の稽古で磨きがかかったせいか、子供とは思えない気魄がその瞳からほとばしっている――
「な、なんだ、その眼は? 生意気なんだよ!」
 餓鬼大将がそれに臆し、そんな自分が許せずに悟空に殴りかかった。大ぶりで無造作な素人くさい一撃だ。
 足のかかとが直角になるような立ち方でこれを迎えた悟空は、対手に向かって前足を踏み込みつつ前手で拳を叩き落す。同時に後手を拳にして瞬時に中段に突き出した――
「うっ」みぞおちを打たれた餓鬼大将は、うめき声をもらし身体を「く」の字で折る。
 悟空は対手の腕をつかみ、もう一方の手で俊敏に顔面を叩いた。
 鼻がへし折れる乾いた音がして、赤い液体が鼻腔から流れ出る……
 その光景を、悟空以外の子供は茫然と見つめた。
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