直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 三間(約五・四メートル)ほどの距離から、猪武者は試合が始まるや踏み込む。長巻が風を巻いてひるがえり、脛を狙ってくり出された。
 低く構えていた紅孩児は、片脚立ちになってこれを俊敏に避ける。
 対手は長巻を返すや、紅孩児の反対側の脛を斬る。先と同様の動きで危なげなく紅孩児は避(よ)けた。
 ――明の兵法の分類法のひとつに、北派拳法と南派拳法というものがある。黄河流域の平野部が多い北部は陸上移動が自由で、陸上生活が主であるため、動作が伸び伸びとしており、練習に広い場所を必要とする門派が多い。一方、長江より南方の珠江流域を中心とする河川や運河の多い華南は、移動や輸送の手段として船を利用することが多く、その生活習慣により、両足を踏ん張った姿勢から手技を用いることを主体とする南派拳法の技法が生まれたという。この分類法に当てはめた場合、紅孩児の動きは北派拳法ということになる。
 即座に猪武者は長巻を引き戻す。今度も脛――ではなく、顔面に向けて刃部がふるわれた。
 一手、二手目は対手に「次も脛を払う」だろうと思い込ませるための“騙し”だったのだ。
 が、紅孩児は計略に引っかかることなく反応する。地面を強く蹴りつける震脚(しんきゃく)、衝撃を今度な身体操作によって腕へと伝達する技を使い、双刀で対手の強烈な一撃を受け止めた。これは、子供の身で大人と立ち合うための知恵だ。
 ――次の瞬間、雷電と化した紅孩児は猪武者のすぐ側に立っている。その得物は、対手の腕に強く押しつけられていた。もしこれが実戦だったなら、確実に敵は得物を取り落としているはずだ。
「――それまで!」
 紅孩児の見事な動きに息を呑んでいた下口が、我に返って判定を下す。
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