上 下
16 / 115

16

しおりを挟む
 そして、三蔵たちは彼らが戦に参加する前に山下城主蒲地鑑広(かまちあきひろ)が龍造寺の前に降(くだ)ったために干戈(かんか)を交えることなく、主である百武賢兼(ひゃくたけともかね)が任されている蒲船津(かまふなつ)城――佐嘉(さが)(佐嘉)と柳川間の伝えの城、その城下にある棟割長屋(むねわりながや)を住処(すみか)として暮らすようになっていた。
 ――蒲船津城下にして数日後の昼下がり、三蔵たちの姿は長屋の裏手にある空き地に見受けられる。
 彼らは各々対手を組んで、対練套路(たいれんとうろ)(組手)にのぞんでいた。
 彼らにとっては兵法こそがすべてだから、時間があればいつでも套路(型)や対練套路を行っていた。いわば兵法狂いだ。
 なお、彼らの格好は漢服から小袖に裁付袴というものへと変化している。武士として暮らす上で変に目立たないようにという配慮によるものだ。
 ――三蔵は革鞘をかぶせた二本の鏢を手に、悟浄を向き合っていた。後者も、兵器の刃の部分には覆いをしている。
 悟浄が月牙鏟の刃を繰り出した。霞んでみえる刃部を体を開き、三蔵は二刀でもって突きを受ける。
 とたん、悟浄は月牙鏟をひるがえした。風を巻いて、柄尻が再び喉へ突きこまれる。
 即座に三蔵も動き、先ほどと同じ動作で攻撃をそらした。さらに迅影(はやかげ)と化し前進、両刀で悟浄の腕を斬る――が、対手も攻撃をいなされた勢いに乗って後退、月牙鏟を旋回させていた……三蔵の首筋に半月状の刃が突きつけられている。
「やはり、近間(ちかま)の戦いになるとお前は今一歩だな」
 悟浄が涼しげな顔で告げた。
 確かに彼のいう通りだ。三蔵の最後の一手は対手の腕を裂くだけだが、悟浄の一撃は確実に刃を受けた者の命を奪うものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

輪廻のモモ姫

園田健人(MIFUMI24)
歴史・時代
まだ日本が「大八洲」と呼ばれていた時代。 伊邪那美命(通称:ナミ)から生まれたモモは、伊邪那岐命(通称:ナギ)が殺害しようとしていたカグヅチを守るため、ある巨大な洞窟へ逃げ隠れる。 しかし、その洞窟には祟り神の力を得た巫女が住むと言われており、モモと従者は戦いを余儀なくされた。 その巫女に打ち勝つと、モモは「輪廻転生」の呪いを受け、生まれ変わりの後も前世の記憶を受け継ぐ能力を身に付けてしまう。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

信濃の大空

ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。 そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。 この小説はそんな妄想を書き綴ったものです! 前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇

和ませ屋仇討ち始末

志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。 門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。 久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。 父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。 「目に焼き付けてください」 久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。 新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。 「江戸に向かいます」 同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。 父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。 他サイトでも掲載しています 表紙は写真ACより引用しています R15は保険です

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

戦争はただ冷酷に

航空戦艦信濃
歴史・時代
 1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…  1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。

処理中です...