直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「いいのか紅孩児、お前もあんなふうになっても?」
 彼は八戒の樽を思わせる腹を指さす。
 うっ、と紅孩児がうめいた。自分が大兵肥満になる未来を脳裡(のうり)に描いたのかもしれない。
「こらこら、悟浄。子供を脅かすんじゃありません」
 三蔵が二人の会話に割って入りながら、紅孩児のほおについた米粒をとってやった。
「そうだそうだ」味方を得たことに調子に乗って、紅孩児が悟浄に小憎たらしい表情を向ける。
「紅孩児も、もっとよく噛んで食べなさい。体に悪いですよ」
 そんな彼に三蔵は小言を口にした。
「はーい」だが、紅孩児は反抗する様子などみじんもみせず素直に従う。
 なぜか、彼は三蔵だけは、自分を子ども扱いをしようが、耳に痛いことを告げられようが従順な態度をとるのだ。
「お前らはまことに面白い奴らだなぁ」
 と、そこに頭領が姿を現す。三蔵の近くにどっかりと腰を下ろした。
「これは頭領、商談の方はまとまりましたか?」
 仲間の仲で日本語を操れるふたりのうちのひとりである三蔵がそれに応じる。
「うむ、上首尾といったところだ」
 頭領は満足げにうなずいた。そして、
「それで、お主たちはこれからどうするのだ? 日の本で成り上がるのはいいとして、まずはその端緒としてどこぞの国に仕官せねばなるまい?」
 と言葉を重ねた。
「そのことですが、我らはまだこの国に不案内。まずは、各地をまわり見識を広めようかと」
 ふむ、とそれに対し頭領は思案げな顔をする。
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