117 / 120
117
しおりを挟む
蔵人は西江水を解いた……心の在り様の落差に、一瞬眩暈を感じた。
それに何とか耐え、周囲へ視線を走らせる。
戦いは終息へ向かいつつあった。
手練のすべてを失い、頭を欠いて、南蛮人たちと大友家に仕える透波たちは統制を失って烏合の衆と化す――。
それからほどなくして、敵は一掃された。
終章
全てが片づいた後、その足で蔵人は鶴の元へ向かった。
応対に出てきた下男は驚いた顔をして、次に慌てて店の中へ姿を消す。
しばらくして、鶴が外へて出てきた――こちらを目の当たりにした途端、眼を瞠った。
「お、お怪我をなさっているのですか!?」
身を難じる眼色をして近づく鶴を拒むように、蔵人は無意識の裡に後ろへ退く。
拒絶の気配を察したのか、鶴は傷ついた顔をしながらも距離を詰めるのを止めた……
「――御主の仇は討った」
そう告げ、蔵人は懐から石宗の使っていた鉄扇と切り取った髷を取り出す。
「これは、その者が使っていた品と髷だ」
鶴は戸惑った顔になってそれらを見つめた。
「証として持って来たが、受け取らぬも受け取るも自由だ」
と蔵人がつけ加えると、娘はおずおずと手を伸ばして受け取る。そして、こちらの眼を覗き込みながら、
「……行ってしまわれるのですか?」
と哀しげな顔で尋ねた。
それに何とか耐え、周囲へ視線を走らせる。
戦いは終息へ向かいつつあった。
手練のすべてを失い、頭を欠いて、南蛮人たちと大友家に仕える透波たちは統制を失って烏合の衆と化す――。
それからほどなくして、敵は一掃された。
終章
全てが片づいた後、その足で蔵人は鶴の元へ向かった。
応対に出てきた下男は驚いた顔をして、次に慌てて店の中へ姿を消す。
しばらくして、鶴が外へて出てきた――こちらを目の当たりにした途端、眼を瞠った。
「お、お怪我をなさっているのですか!?」
身を難じる眼色をして近づく鶴を拒むように、蔵人は無意識の裡に後ろへ退く。
拒絶の気配を察したのか、鶴は傷ついた顔をしながらも距離を詰めるのを止めた……
「――御主の仇は討った」
そう告げ、蔵人は懐から石宗の使っていた鉄扇と切り取った髷を取り出す。
「これは、その者が使っていた品と髷だ」
鶴は戸惑った顔になってそれらを見つめた。
「証として持って来たが、受け取らぬも受け取るも自由だ」
と蔵人がつけ加えると、娘はおずおずと手を伸ばして受け取る。そして、こちらの眼を覗き込みながら、
「……行ってしまわれるのですか?」
と哀しげな顔で尋ねた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……
彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。
そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

子ども白刃抜け参り(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別作品、別名義で)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別作品、別名義で)
貧乏御家人の次男の助之進は、通っている剣術道場の娘の志乃と心を通わせ合う仲にあった。しかし、それを知らない志乃の父、道場の師範は縁談の話を持ってきてしまう。実は隠してきたが労咳を病んでいる志乃、思い詰め、助之進に伊勢参りを勝手に子どもだけで敢行する“抜け参り”に同道してくれと申し出る。迷った末に受諾する助之進。敢行当日、待ち合わせ場所に朋友である晴幸が姿を現し共に伊勢に向かうこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる