ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「お供します、先生」と応じ、飛び出してきた頼慶が荷車の陰に移ってきた。
「儂も参ろう!」文五郎もそれに続く。
「遅れんで、ついて来んと知らんばい!」
 叫ぶなり、蔵人は荷車を押して駆け出した。二町(約二二〇メートル)ほど離れた浜に向かって突撃する――。
 行雲とその配下の者たちが散開して銃を撃っているお陰で、火線が蔵人たちに集中することはなかった。
 それでも偶然掠めていく弾丸はあり、その上、近づくにつれて接近を許してなるものかとばかりに狙って銃を撃つ者が現われた。ただ、敵は統制がなっておらず、撃ち方を分けて後退して発砲するという策戦も取っておらず、弾幕は薄い。
 ――そして、蔵人たちは敵の懐へとたどり着いた。荷車はぼろぼろになっているが、三人には掠り傷一つなかった。
 疾風怒濤、勢いのままにそれぞれが別方向へと飛び出し、三者は敵へと襲い掛かる。

 頼慶の抜き打ちの一撃が、銃手の手首を裂いた。悲鳴を背後に、瞬く間に次の相手へと斬りかかる。閃、閃、閃、と刀を振るう。その度に手首を、頸を、内腿を裂かれ、敵が戦闘力を失った。
 だが、数人を斬り捨てたところで、奮戦する頼慶の前に強敵が現われる。
 力士の如く肥えた対手が、近づくなり斧と槍が合わさった武器を横殴りに振るったのだ。手首を裂かれながらもまだ息のある南蛮人が、その一撃で絶命する――上半身と下半身に別れ、砂地に転がった。零れ出た血が、白に近い砂の色を赤黒く染める……
(太い血管を裂かれていたとはいえ、まだ生きている仲間をッ――)
 頼慶の胸の裡に怒りが爆(は)ぜた。しかし、己を必死に御する――闇雲に突っ込めば、間合いの点において不利な者が敗れるのは必然だ。
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