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「件(くだん)の男は、木賃宿に長期逗留しているらしい。一日見張ったが、今日は特に動きはなかった」
と南蛮人と接触している男の監視の報告を行った。そういう役割は透波である千里の方が秀でているという点を考慮し任せたのだ。他の者が下手に加われば足手まといになる懸念もあり、また鬼に再び相見(あいまみ)えたときにこれを破る技倆に達するための修行が蔵人には必要という理由もある。
「男は、朝夕に木刀で稽古に励んだ意外は、町をそぞろ歩いただけだ」
千里がさらにつけ加えた。
稽古、という言葉に他の三人が反応する。
「どこの流派か分かるか?」と文五郎が問い発した。
「太刀筋が判るような稽古はしなかった。ただ、素振りをするだけだった」
千里は淡々とした口調で告げて首を横に振る。
「あと、あいつにはまだ元服も迎えていない弟がいる」
「弟?」
千里の言葉に、蔵人は怪訝な顔で聞き返した。南蛮人と接触して武器を手に入れようというのに、わざわざ弟を連れているというのは解せない――あるいは、そうすることで余人に、「よもや、剣呑な行為には手を染めまい」と思わせるのが目的なのか?
「なんでも、『年少の弟に世の中を見せ見聞を広めたい』ということらしい」
千里の口にした言葉が本当なら中々殊勝だが、もし蔵人が深読みが当たっていたのなら血も涙もない兄ということになる。
「それと、はやり男は時折、辺りを憚(はばか)るような鋭い眼をすることがあった。ただ切支丹の教えを学びに来ている訳ではないことだけは確かだ」
千里は最後にこう告げた。
話が終わるのを待って、今度は文五郎が口を開く。
と南蛮人と接触している男の監視の報告を行った。そういう役割は透波である千里の方が秀でているという点を考慮し任せたのだ。他の者が下手に加われば足手まといになる懸念もあり、また鬼に再び相見(あいまみ)えたときにこれを破る技倆に達するための修行が蔵人には必要という理由もある。
「男は、朝夕に木刀で稽古に励んだ意外は、町をそぞろ歩いただけだ」
千里がさらにつけ加えた。
稽古、という言葉に他の三人が反応する。
「どこの流派か分かるか?」と文五郎が問い発した。
「太刀筋が判るような稽古はしなかった。ただ、素振りをするだけだった」
千里は淡々とした口調で告げて首を横に振る。
「あと、あいつにはまだ元服も迎えていない弟がいる」
「弟?」
千里の言葉に、蔵人は怪訝な顔で聞き返した。南蛮人と接触して武器を手に入れようというのに、わざわざ弟を連れているというのは解せない――あるいは、そうすることで余人に、「よもや、剣呑な行為には手を染めまい」と思わせるのが目的なのか?
「なんでも、『年少の弟に世の中を見せ見聞を広めたい』ということらしい」
千里の口にした言葉が本当なら中々殊勝だが、もし蔵人が深読みが当たっていたのなら血も涙もない兄ということになる。
「それと、はやり男は時折、辺りを憚(はばか)るような鋭い眼をすることがあった。ただ切支丹の教えを学びに来ている訳ではないことだけは確かだ」
千里は最後にこう告げた。
話が終わるのを待って、今度は文五郎が口を開く。
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