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 沖天を太陽が過ぎてからは、頼慶に町で手に入れた杖を持たせて鬼の動きを再現させ、それを蔵人は相手取っている。蔵人が昨夜眼にした動きをやってみせ、これを頼慶が真似してみせるというもののため、どうしても実際の刀法とは相違のあるものになるが、これは致し方がない。日の本や明には、類似どころか似た流派すら存在しないのだから……
 また、鬼が並外れた身体能力を有していた点も大きい。
 疵の手当てを終えた後、何があったのかを聞いた文五郎の言によると、
「彼(か)の源義経も、八艘跳びという尋常ならざる跳躍力を有していたという。それは、兵法がどうのというよりも、その者が生まれもった天稟による代物らしい。ごく稀に……数百年から千年に一度ほどの周期でそういった者が生まれいずるらしいが」
 ということだ。そんなもの、再現しろという方が無茶だろう。困っているのはそれだけえではない。
(突きが主体の刀法だけん、新陰流の技の多くが遣えんばい……)
 蔵人は難しい顔で思案する。新陰流の技――三学円の大刀の裡の三本は、大刀を振り上げて攻撃を加えようとする敵を制する勢法になっている。これらは、あの鬼には通用しない。
 また、新陰流は介者剣術が基になっているだけに、小手への斬撃が多いが、面の者が振るっていた剣には拳の部分に多いがありそれが通じない。これにも、蔵人は頭を悩ましている。
 ――頼慶の総身の各所への突き、袈裟斬りを禦(ふせ)ぎ、躱しながら改めてそれらの事柄を確認した。
(あ奴を斃すとなら、はやり意表を突くしかなかね)
 その結論に達する。と同時に、蔵人は突き出された杖を、袋鞱で打ち落とした。
 直後、左足を大きく振り上げて、弟子の右脚部に蹴り浴びせる。一時的に攻撃を止めた――鬼を相手取るなら、この手順は必要だ。
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