ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「南蛮貿易ねぇ」と漁師は特に感慨を感じている様子もなくその言葉を繰り返す。やがて、
「やっぱ、平戸のお殿様がお許しになられとる座に加わらんと無理(むい)でなかね?」
 と漁師は当たり前の返答を口にした。
 また、外ればい――表面上は愛想のいい顔をしながらも、蔵人は胸の裡で舌打ちを漏らす。宿を出てから、こうして漁師や船頭を見つけては話を聞き出していた。だが、今のところ芳しい話は訊けず、陽は沖天(ちゅうてん)に昇ろうとしている。本来なら、先に現地に入っていた透波の務めだが、千里の話によると南蛮の船で一人、浜で一人殺されてしまい、平戸で動かせる者が今現在いないというのだから仕様がない。
 ――蔵人は更に食い下がった。
「だが、どうも座に属していない人間が最近、南蛮人たちに会いに行ってるという話を聞いたんだが、どうなんだ?」
 その問いかけに、漁師は何かを思い出そうとするような顔つきになる。やおら、「ああ、そういえば」と話し始めた。
「座以外の人間が南蛮の艀(はしけ)に乗っとるのを見たたいねぇ」
 この漁師の証言に、蔵人の眼を光らせる。
「座、以外の人間が?」と興味津々の態で訊いた。本当は、興味津々どころか相手の襟首を掴んで問い詰めたいところだ。
「ばってん、あれはなんでも切支丹とかいう異国の神様(かみさん)の教えを乞いに行っとるって話たい。商売じゃなかごたーよ」
 漁師は亢奮するこちらを宥めようとするようにいう。
「いや、それでも構わない。とにかく、南蛮に関する話は一つでも欲しい。直に会っている者から話を聞いてみたい――どこで、その人を見たのか、どんな目鼻立ちなのか教えてくれないか?」
 相手に否と言わせないために、蔵人は勢い込んで頼み込んだ。同時に、さらに銭を相手に押し付ける。
「ぁ、ああ」と顔を綻ばせながら、漁師は顎を引いた。

 ――それから、蔵人は事細かに話を聞き出した。
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