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 半身に構え、手は拳の形に握らずに右を顎のやや下の辺り、もう一方をだらりと腰の方へと下げた。そこから一歩踏み出すや、軸足を固定したまま腰の力を抜いて踵(かかと)で蹴りを打つ。その一撃には、丸太を粉砕しそうな迫力があった。
「ほう、これが中国の拳術というものか。なるほど、面白い」
 文五郎は満足げに何度も首を縦に振る。
 それに、頼慶は合掌して頭を下げた――その瞬間、ぐぅ、と蔵人の肚の虫が大きく鳴いた。
「――御主は童か?」と文五郎が呆れ混じりの笑みを浮かべて訊く。
「べ、弁解のしようもなか」
 蔵人は顔を紅くし、その様子に頼慶が吹き出した。

   2

 稽古の後、蔵人たちは朝餉を作って食べた。内容は、昨日の残りの具材に糒を用いた雑炊だ。
 昨日の商人と琵琶法師は既に発っていた、この場にはいない。
 やや声をひそめながらも、両者から手に入れた話について意見を交わす――。
「件の辻斬りっちゅうのは、なして起こってとるとかねぇ」
 蔵人は首を傾げながらも、旺盛な食欲を見せて雑炊を掻き込んでいる。
 食べっぷりに関しては、他の三者に似たようなもので、蔵人に比べれば文五郎は上品な所作だがそれぞれお代わりを重ね胃に食い物を収めていた。
「単なる通りすがりの凶行でないというのなら、対立する二つの勢力が存在するということになるの」
 文五郎が蔵人の言葉に応じる。
「だとしても、何処と何処が?」
 頼慶が真面目な顔つきで疑問を呈した。
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