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「何をいう――私も己が兵法を打ちたてようと工夫を重ねている」
「ほんなこつか?」
 笑って告げる文五郎の言葉に、蔵人は飛び上がらんばかりに驚く。
「よく考えてみよ。新陰流も――陰流開祖、愛洲移香斎(あいすいこうさい)殿が打ち立てたものを、二代目宗家、小七郎宗通(こしちろうむねみち)殿に我らが師が入門し会得したものに研鑚を重ね、工夫を加えた末に生まれたものだ」
 真面目な顔つきになって語る兄弟子の言葉に、蔵人は「確かに」という思いを抱いた。
「兵法というのは、そうやって先人たちがさらにその先人たちが受け継いだものに工夫を重ね、発展してきたものだ。真に兵法に命を捧げるというなら、己が流派を打ち立ててみせぃ」
 言い切ると、文五郎は再び笑顔を浮かべる。
 蔵人だけでなく、その弟子たちまでもがその言葉に感じ入っていた。一体となった沈黙とその場に降りる。
 ――と、そこへ家臣の一人が近づいてきた。
「丸目殿、殿が及びでございまする」
 その顔つきは緊張したものだ。
 相手の様子から、蔵人はその呼び出しが本来の務めに関するものだと察する。
「文五郎、すまんけど――」と言いかけたところで、
「行ってこい。一つ、某が御主の弟子たちに稽古をつけてやるとしよう」
 文五郎は応じた。
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