ニルヴァーナ――刃鳴りの調べ、陰の系譜、新陰流剣士の激闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 平伏しながらも、蔵人はそのことを確認していた。場合によっては、反逆者としていきなり討ち取られる事態も有り得ると気を張っていただけに、これは拍子抜けだ。
「面(おもて)を上げよ」
 義陽の許しに従い、蔵人は頭を上げる。
 このとき、義陽は齢十四――天文二十四年に父の死を受けて家督を継いだのだ。利発そうな顔(かんばせ)をしている。蔵人がまだ戦にさえ出ていなかった年頃で、領主としての責務を必死にまっとうしようとしている、そんな気配が感じられた。
 脇に控える年寄は、壮年の奸知に長けていそうな顔つきの男だ。
「御主が信綱殿の公方様への上覧仕合で打太刀を務めたことは聞いておる、まことに天晴れ、褒めてつかわす」
 甲高い声で、だがそれでも歳に不相応な威厳のこもった口調で義陽はいう。
「は、お褒めに預かり、有り難き幸せ」
 蔵人はそれに応じ、再び頭を下げた。
「――そこで、当藩に仕官し、御主には剣術指南役を務めてもらいたい」
 義陽が、蔵人が貌を上げるのを待って告げる。
 一瞬、蔵人は言葉が出てこなかった。一度は反逆者の一族として追われた身だ……二度と故郷の土を踏むことないのかもしれない、そんな風に思ったこともある。それだけに、感無量だった。
「これ、何を黙っておるとか」
 それを見咎めた年寄が蔵人を叱責する。
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