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 蔵人の初陣は、弘治元年(一五五五)齢十六のときだった。薩摩との国境にあった村、大畑(おこば)がその舞台だ。
 そこへ向かう途中の山道、進軍中の兵の中に混じってまだ幼さを残した蔵人の姿があった。ただ、その体格は大人にも負けない立派なものだ。その隣には、同じく侍の子である政信の姿がある。こちらは、武士の子としてはやや頼りない感じのする風貌の若者だ。その外見にふさわしく優しい性根をしており、やんちゃな蔵人が何か問題を起こす度に代わりに頭を下げている。そんな関係だから、二人の仲は無二のものだ。
「やっと、初陣が許されて嬉しか」
 蔵人は隣を歩く政信に満面の笑みを向ける。
 一方、政信は顔色が優れない――さすがに認めはしないが、恐怖しているのだ。
「また、そぎゃんこついって、与作はぁ。討ち死にしても知らんばい」
 弱気な表情で政信は言葉を返す。
「長恵って呼べていうとろうが」と幼名を呼ばれた蔵人は途端に不機嫌な顔つきになった。与作の名を口にされると、幼子のように扱われているように感じるのだ。
「すまん、長恵」
 政信は慌てて謝罪する。すると、すぐに蔵人は機嫌が直った。
「よかよか、政信だけん許す」
 元々、そういう気性なのと、戦に参加できるという気分の昂揚を感じているからだ。
 政信は、安堵した様子を見せながらも物々しい空気の呑まれて曇った貌をしている。
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