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「そうか」
なんだか拍子抜けだ。生きた父親に会えば感慨もわくだろうが、死んでいるとなるとそういった感情もなくただただ無感動だ。
「まあ、二親が死んでるのは何もお前だけじゃねえ」
「確かにな」
慰めらしき助左衛門の発言に、栄助は淡々とうなずいた。
「それに俺には妹が、およねがいた」
それは天涯孤独となって放浪することになった助左衛門とは大きく違う。
およねは幸せにしてるだろうか――。
栄助はふいに故郷の妹のことを思った。もはや、会うこともないだろう相手だが、それでもその身を案じる気持ちに偽りはない。
俺が案じているようにおよねも――恐らくこちらの身を心配しているだろう。向後も自分は生きていかなければならない、そんなふうに思った。それに巻き添えで死んだ彦兵衛の分も生きなければならない。
五
ふたたび煙の末の姿を捉えたのは、出現を願って待ち伏せをした水争いの舞台の村の近くだった。
夜、栄助の優れた夜目は人影の絶えた中、野外を修験者の格好をした煙の末が移動するのに気づいた。栄助はゆっくりと呼吸をしながら鉄砲を構える。相手に勘付かれるのを恐れ、火縄にはまだ火をつけない。
だが、彼には相手に集中する余り周囲への気配りが散漫になっていた。
彼の組で共に行動している猪助が村の外れに鎮座する岩の陰から大きく身を乗り出していたのだ。よく鍛えていても年齢による視力の低下は防げないためだ。
なんだか拍子抜けだ。生きた父親に会えば感慨もわくだろうが、死んでいるとなるとそういった感情もなくただただ無感動だ。
「まあ、二親が死んでるのは何もお前だけじゃねえ」
「確かにな」
慰めらしき助左衛門の発言に、栄助は淡々とうなずいた。
「それに俺には妹が、およねがいた」
それは天涯孤独となって放浪することになった助左衛門とは大きく違う。
およねは幸せにしてるだろうか――。
栄助はふいに故郷の妹のことを思った。もはや、会うこともないだろう相手だが、それでもその身を案じる気持ちに偽りはない。
俺が案じているようにおよねも――恐らくこちらの身を心配しているだろう。向後も自分は生きていかなければならない、そんなふうに思った。それに巻き添えで死んだ彦兵衛の分も生きなければならない。
五
ふたたび煙の末の姿を捉えたのは、出現を願って待ち伏せをした水争いの舞台の村の近くだった。
夜、栄助の優れた夜目は人影の絶えた中、野外を修験者の格好をした煙の末が移動するのに気づいた。栄助はゆっくりと呼吸をしながら鉄砲を構える。相手に勘付かれるのを恐れ、火縄にはまだ火をつけない。
だが、彼には相手に集中する余り周囲への気配りが散漫になっていた。
彼の組で共に行動している猪助が村の外れに鎮座する岩の陰から大きく身を乗り出していたのだ。よく鍛えていても年齢による視力の低下は防げないためだ。
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