陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「戦いを避けられては困るが、後で殺した相手を供養するのは良い手だな」
　小次郎が不機嫌な口調で、だが栄助の行為を賞賛した。
「陣借り無宿になって久しいが、供養なんてことは考えてもみなかったな」
「確かに」
　伊平治の言葉に、助左衛門が神妙な顔で首肯する。
「おめえ、栄助と同じ寺で手習いを受けてたんじゃねえのか？」
「いや、途中で抜けちまったし」
　猪助の揶揄に助左衛門は後頭部に手をやって困った顔をした。
「とか言って、怠けてたんじゃねえのか？」
「そんな昔のことで今さら責めないでくだせえ、親分」
　猪助に追いつめられ助左衛門が白旗を挙げる。
　それに栄助、伊平治、小次郎は笑い声をもらした。
　それから、栄助は猪助に連れられ旅籠の裏の空き地に赴く。手には、小次郎特製の袋竹刀を手にしていた。
　栄助は一般的な剣術の鍛練法と違う、まず物を斬れるようになることを優先して教えられた。それから今、型を仲間に学んでいるのだ。
「いいか、栄助。あっしの剣術は田舎剣法だが実戦には最適だ。心して学べ」
　猪助の言葉に栄助は渋い表情を浮かべる。
　実戦では折り紙付きの腕前を披露している彼だが、型稽古では幾度かに一回、技を仕損じて竹刀で体を打たれるのだ。
　防具など邪魔になるから用意していないため、これが思った以上に痛いのだ。
　袋竹刀で抜き打ちの一撃を再現する。そこから、右、左と斬り込んだ。
　が、竹刀と竹刀がぶつかった瞬間、撓んだ切っ先が顔に迫る感覚があった。それで思わず体が硬直する。