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「俺が嫁取りするのを見守ろうなんて考えるなよ、いつでも好きなときに嫁に行け」
「だって、兄さんがお嫁さんをもらうのを見届けないと心配なんだもの」
 栄助の言葉におよねが子を案じる母のような顔つきを見せる。
 やれやれ、と栄助はため息をついた。妹にそんな心配をかけている自分が情けない。
「大丈夫だ、俺のことなぞ案じるな。お前の幸せが俺の幸せなんだ」
 栄助の噛んで含める言葉に、少し間を置いて、
「うん」
 と妹はうなずいた。それに栄助は満面の笑みを浮かべた。

 瞬間、栄助は目を覚ます。そこはおよねの待つ家ではなく、旅籠の一室だった。
 闇の中に横になっている仲間の姿が浮かんで見える。
 栄助は夢の中より大きなため息をついた。
 一度は陣借りから離れたのを自分から戻ったのだ。それを故郷のことをまるで今現在の暮らしのように夢に見るのは未練がましく思えたのだ。
 弱いな、俺は――そんな思いを抱く。無宿という頼りない立場でも、もっと迷わずに生きていたかった。
 それから再び眠りについて、目覚め、旅路について一刻ほど経った頃だった。
 路傍に何か転がっているのを遠目の利く栄助は近づく前から気づいている。
 距離を詰めてみるとその正体が分かった。
「骸か」
 猪助が淡々とした口調でつぶやく。
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