98 / 137
92
しおりを挟む
そうか、だからか――と栄助は思った。他に生き方を知らないというのもあるだろうが、やくざ者になる者の一部には、こういう快感じみたものを感じるために渡世人になるのだと思った。
その後、栄助たちは宿場で旅籠に泊まった。風邪気味だった栄助は賭場にも女を買いにも行かず部屋でじっと横になっていた。
そこに風を巻いて男たちが飛び込んでくる。
「親分の仇を討たせてもらうぞ」
という低い声に相手の正体が分かった。
だが、栄助の理解は追いつかない。呆然となって四人の男たちを見つめる。
「覚悟しやがれ」
長脇差が抜き放たれ切っ先がこちらに向けられた。
まずい――この段になってやっと栄助は焦慮に駆られる。
刹那、胴が抜かれた。斬りつけたのは男たちのひとりで仲間に向かって斬撃を浴びせたのだ。
閃、閃と立てつづけに長脇差をふるい男は首を薙ぎ、太腿の太い血の管を裂いた。
これは――栄助は倒れる男たちを無言で見守る。
「それがしは元は小姓で現在、家中で隠密を担っている者にござる」
血ぶりした男が話しかけてきた。はあ、と曖昧な声を返すと、
「友之助をお守りできなかった儀、こたびの助太刀にして果たしたと存ずる」
と男はどこか晴れやかな表情で告げた。
なるほど、と栄助はうなずいた。かつての無念をこの場で晴らしたというのだ、この男は。ならば顔つきの理由にも納得がいく。だが、
「友之助とは?」
「貴殿らが小次郎と称しておる御仁でござる」
実は、と男は言葉をかさねた。
その後、栄助たちは宿場で旅籠に泊まった。風邪気味だった栄助は賭場にも女を買いにも行かず部屋でじっと横になっていた。
そこに風を巻いて男たちが飛び込んでくる。
「親分の仇を討たせてもらうぞ」
という低い声に相手の正体が分かった。
だが、栄助の理解は追いつかない。呆然となって四人の男たちを見つめる。
「覚悟しやがれ」
長脇差が抜き放たれ切っ先がこちらに向けられた。
まずい――この段になってやっと栄助は焦慮に駆られる。
刹那、胴が抜かれた。斬りつけたのは男たちのひとりで仲間に向かって斬撃を浴びせたのだ。
閃、閃と立てつづけに長脇差をふるい男は首を薙ぎ、太腿の太い血の管を裂いた。
これは――栄助は倒れる男たちを無言で見守る。
「それがしは元は小姓で現在、家中で隠密を担っている者にござる」
血ぶりした男が話しかけてきた。はあ、と曖昧な声を返すと、
「友之助をお守りできなかった儀、こたびの助太刀にして果たしたと存ずる」
と男はどこか晴れやかな表情で告げた。
なるほど、と栄助はうなずいた。かつての無念をこの場で晴らしたというのだ、この男は。ならば顔つきの理由にも納得がいく。だが、
「友之助とは?」
「貴殿らが小次郎と称しておる御仁でござる」
実は、と男は言葉をかさねた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる