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 早合を使って栄助は二度目の射撃を行った。破落戸の中でも偉そうな者が倒れる。
 それでも、破落戸たちの動きは止まらない。
 が、百姓家を囲んだところで彼らの勢いが鈍った。
 屋根の上を狙える得物を持っていないのだ。登るのに使った梯子もあらかじめ隠してあるため登ってくることもできない。
 刹那、喚声がわいた。周囲の百姓家から襲ってきたのとは違うやくざ者の組の破落戸たちが現れたのだ。
 彼らは小鳥遊組と縄張りを接する組のやくざ者たちだ。小鳥遊攻略の鍵はないかと事前に接触したのだが、出入りを小鳥遊が試みていると聞いて合力を申し出たのだ。そして、小次郎の提案で百姓に金を払って家屋を借りて島津家の戦法、釣り野伏せを実行したのだ。
 包囲された小鳥遊組が一気呵成に崩されていく。そこには助左衛門たちも加わっていた。栄助も銃弾と火薬の装填が終わるなり鉄砲を撃つ。
 やがて、
「小鳥遊の連中に勝ったぞ」
 やくざ者のひとり、親分が叫んだ。敵は地に伏すか逃げるかしてもはや生きている者はいない。
 やくざ者たちが興奮を露わにしている。
 それを目の当たりにし栄助も滾るものを抑えられなかった。
「勝ったな」
 気付くと、梯子を使って助左衛門が屋根に登っている。
「勝った」
 これがその喜びか、と栄助は自分でもその感情が信じられなかった。村で猟師をしていたら感じることのない感覚だったろう。
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