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「だから、俺たちゃあ小鳥遊(たかなし)組の親分に盃をもらってるんだ、こんなことをしてただで済むと思ってるのか」
最初に口を開いたのは縄で縛られた破落戸だ。
「おまえらみてえな破落戸と一家の親分がどうして盃なんぞ交わす」
対する猪助の声は落ちついたものだった。
「俺と親分は叔父と甥なのさ」
「びびって、小便垂れたおめえと親分がか」
猪助の指摘に破落戸は顔を真っ赤にして言葉が出てこない。
「だが、おれが親分と甥叔父の間柄なのは確かだ」
やっとのことで破落戸はそのせりふを絞り出した。そのようすからして破落戸の言葉は確からしい。
「このへんで小鳥遊といやあ、浪人なんかの腕っこきを揃えて人狩りを生業のひとつにしてる厄介な野郎ってことになる」
猪助が顎をさすりながら独語めいた言葉を口にする。
「先手必勝で頭を殺っちまうか、親分」
助左衛門が物騒かつ非道な発言に及ぶ。だが、彼らが生き残るには必要な選択肢ではあった。
彼らのやり取りを聞きながら栄助はなんとも言いがたい達成感を味わっていた。
やったことは人殺しだ。だが、そのことに充実した感触をおぼえている。
「尻に帆をかけるのも手だ。仕事を請け負ってない今なら、それもありだ」
「討ち死にするだけ損な相手だ」
伊平治がいかにも忍びの子孫といった合理的な意見を述べる。小次郎が彼の意見に賛同するような言葉を述べた。
「あっしも面倒は避けるのはいいと思うぜ」
猪助も逃げる方に票を投じた。
「へっ、情けないやつらだ」
「小次郎、口を塞げ」
冷笑するごろつきに、猪助が冷めた声を発した。
「ま、待て」
すべてを言い終わる前に小次郎が長脇差を抜き放ち、心の臓を突く。
最初に口を開いたのは縄で縛られた破落戸だ。
「おまえらみてえな破落戸と一家の親分がどうして盃なんぞ交わす」
対する猪助の声は落ちついたものだった。
「俺と親分は叔父と甥なのさ」
「びびって、小便垂れたおめえと親分がか」
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「だが、おれが親分と甥叔父の間柄なのは確かだ」
やっとのことで破落戸はそのせりふを絞り出した。そのようすからして破落戸の言葉は確からしい。
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彼らのやり取りを聞きながら栄助はなんとも言いがたい達成感を味わっていた。
やったことは人殺しだ。だが、そのことに充実した感触をおぼえている。
「尻に帆をかけるのも手だ。仕事を請け負ってない今なら、それもありだ」
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冷笑するごろつきに、猪助が冷めた声を発した。
「ま、待て」
すべてを言い終わる前に小次郎が長脇差を抜き放ち、心の臓を突く。
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