陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「下ろせって言ってるだろ」
「下ろさないよ」
 せめて子どもだけでも無事に宿場に届けないと罪悪感で胸が張り裂けそうだ。
「ほら、暴れないで掴まってろ」
 そう言う最中から、ふいに妹のことを思い出してしまった。
 もし、妹が襲われていたとしてそれを見捨てた者がいたら自分は許せるだろうか。
 許せない――。
 だが、どうしようもなかったのも事実だ。乱暴に及ぶような相手だ、下手にかかわったら殺されていたかもしれない。
 結局その後、栄助は元の宿場までもどって子どもを保護してもらい自分の宿をとった。

   三

 女子を見見捨てた翌日、栄助は街道を外れて道なき道を進んだ。
 猟師として生きてきたお陰で足取りは決して重くない。
 そうして、宿場町についた。宿でここいらの賭場がどこなのかを聞き込み足を向けた。
 すると、やはりいた。助左衛門たちの姿が賭場にあった。
 栄助の表情から何か察したのか助左衛門が立ち上がってこちらに近寄ってきた。
 戸口の脇で栄助は彼に声をかける。
「仲間に戻りたい」
「そりゃまた、どうしてだ? 仔細があるんだろう?」
 助左衛門の問いかけに昨日の体験を語った。このために街道から外れて手籠めの下手人たちを避けてやって来たのだ。
「なるほどな、何もできないのはもう嫌、か」
 助左衛門が皮肉な笑みを浮かべた。
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