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 それを数日、すでにつづけていた。だが、まるで何事もなかったように旅はつづいている。お菊がいないという事実だけを残して。
「それでは栄助、稽古に参ろう」
 小次郎が怒ったような口調で言った。だが、いつも不機嫌だから、特段お菊のことで腹を立てているのではないはずだ。
 宿の裏の空き地に栄助は伊平治に連れられ訪れる。小次郎があらかじめ用意していた細い竹を地面に立てた。
「されば、抜かれよ」
 小次郎にうながされ栄助は腰に差してきた長脇差を抜いた。
「斬られるがよい」
 彼にうながされ栄助は長脇差をふるう。得物をふりあげての袈裟斬りだ。
 竹がななめに斬れ、上部が滑り落ちる。が、小次郎は満足しない。
「斬るとき、顔を引かぬよう心得られよ。上肢が反る上、顔を引くと見るべきところも見えぬようなるゆえ」
「承知した」
 栄助も答えながらも稽古に対し乗り気になれない自分がいる。
 お菊の件が尾を引いて集中できないのだ。
「されば、次」
 伊平治が次の竹を地面に刺した。
 剣光一閃、栄助は横薙ぎに長脇差をふるう。ふたたび竹が切断された。
「今度は腰が前に出過ぎてござる。それでは足がすくみ、思うように体が動かなくなりまする」
「はあ、なるほど」
 動きは単純だというに細々とした決まりがあるものだ、と栄助は思った。だが、今はそのことに感心するより忌避する感情が強い。
 人殺しの技を磨けば磨くほど、死というものに近づく気がするのだ。
 結果、三本目の竹には長脇差の歯が食い込んだだけで斬ることができない。
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