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悲鳴、が聞こえたのだ。前方、木立の間に影が蠢いた。
前へと慎重な足取りで歩き、何が起こっているかを把握する。お菊が犬に襲われていた。特殊な修練を積んだ犬なのだろう、二匹が両腕に、もう一匹が首に噛みついていた。
どうせ間に合わない――そう思うが、それでもどうにかならないか自然と思案する。
念のために鉄砲への銃弾、玉薬の装填は済ませてある。
が、一度に狙える獲物は一匹だ。撃った瞬間、今度は栄助が二匹の犬に襲われるだろう。
そんなふうに考えながらも、栄助は立ち放しの姿勢で鉄砲を構えていた。
鉄砲で殺せない分は猪助に買い与えられた長脇差で始末するしかない。慣れない得物でどこまでやれるか不安だった。
お菊が苦し紛れに動くせいで狙いがつけにくい。
それでもやっと照準を合わせた。発砲、首に喰らいつく一匹の首を撃ち抜いた。
一瞬、静寂が落ちた。異常事態にお菊と犬が当惑したのだ。
だが、事態を把握すれば早かった。犬二匹がお菊を放し、栄助に向かって疾駆してきたのだ。
鉄砲を負い紐で体に襷がけにすると、
「来い」
自分を叱咤する意味もあって栄助は怒鳴った。手には長脇差を抜いて握る。
しかし、自分でも緊張で柄の握りがめちゃくちゃなのが分かった。
くそう――栄助は間近に迫った犬を睨んだ。
刹那、一匹が片目に三寸ほどの長さの棒のようなものを受け姿勢を崩して転がった。
もう一匹が栄助に跳躍する。牙を剥いた犬が宙で棒を片目に生えさせた。
「大事はないか、栄助」
背後から伊平治が現れる。
「あ、ああ、俺は大丈夫だ」
が、お菊はどうか。
伊平治が彼女のほうに歩いて行くのについていく。
近づくと彼女が致命的な傷を受けていることが明らかになった。地面に横たわった彼女の首元が真っ赤に濡れている。
前へと慎重な足取りで歩き、何が起こっているかを把握する。お菊が犬に襲われていた。特殊な修練を積んだ犬なのだろう、二匹が両腕に、もう一匹が首に噛みついていた。
どうせ間に合わない――そう思うが、それでもどうにかならないか自然と思案する。
念のために鉄砲への銃弾、玉薬の装填は済ませてある。
が、一度に狙える獲物は一匹だ。撃った瞬間、今度は栄助が二匹の犬に襲われるだろう。
そんなふうに考えながらも、栄助は立ち放しの姿勢で鉄砲を構えていた。
鉄砲で殺せない分は猪助に買い与えられた長脇差で始末するしかない。慣れない得物でどこまでやれるか不安だった。
お菊が苦し紛れに動くせいで狙いがつけにくい。
それでもやっと照準を合わせた。発砲、首に喰らいつく一匹の首を撃ち抜いた。
一瞬、静寂が落ちた。異常事態にお菊と犬が当惑したのだ。
だが、事態を把握すれば早かった。犬二匹がお菊を放し、栄助に向かって疾駆してきたのだ。
鉄砲を負い紐で体に襷がけにすると、
「来い」
自分を叱咤する意味もあって栄助は怒鳴った。手には長脇差を抜いて握る。
しかし、自分でも緊張で柄の握りがめちゃくちゃなのが分かった。
くそう――栄助は間近に迫った犬を睨んだ。
刹那、一匹が片目に三寸ほどの長さの棒のようなものを受け姿勢を崩して転がった。
もう一匹が栄助に跳躍する。牙を剥いた犬が宙で棒を片目に生えさせた。
「大事はないか、栄助」
背後から伊平治が現れる。
「あ、ああ、俺は大丈夫だ」
が、お菊はどうか。
伊平治が彼女のほうに歩いて行くのについていく。
近づくと彼女が致命的な傷を受けていることが明らかになった。地面に横たわった彼女の首元が真っ赤に濡れている。
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