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ただ、見ているだけだった。ただ、見ているだけだったというのに栄助は血が熱くなるのを感じる。
俺は――人が殺されるところを見て興奮していた。
だが、そんな他人事の立場もこれで終わりだ。栄助たちは隣の宿場に向かった。
街道の脇、半町ほど離れた場所に森があることは聞いていた。
言われた通り足を運ぶと、宿場を臨む木陰に栄助は身を寄せた。みずからの輪郭を消すように体勢を整える。
見よう見まねで仲間たちも似たような姿勢をとった。
真っ直ぐ先の標的を狙うから、銃丸が軌道を描くことは気にしなくていい。
確かに話に聞いていたとおり、宿場までは半町ほどの距離だ。栄助は一町までの距離を目で見て計ることができる。
今は夜間、目標の周辺部に焦点を合わせると目的の物を見ることができる。
そうやって宿場を見張っているうちに街道に無数の人影が現れる。
『親分が乾分を従えて寺から帰ってくる』
と親分からは聞いていた。
栄助は火縄に火をつけて鉄砲を構えた。最初の依頼のように臆病の虫が騒ぐ。それを全力で抑えた。膝放しの姿勢で銃口を標的に向けた。
相手が歩いていることを目算に入れて引金を絞る。
轟音が夜のしじまを打ち破った。とたん、例の親分の頭が血を吹くのが遠目に分かった。
倒れる親分を子分たちが遅れて抱き起すが既に遅い。
「あっちだ」
と指をさす者もいたが、
「ずらかるぞ」
猪助の指示のもと、すでに栄助たちは陣払いを始めていた。
追手がかかった頃には森を抜けて隣の宿場にもどっていた。
栄助の心の臓は早鐘を打ち、手足は汗に濡れている。
俺はまた人を殺した――後悔しているはずだというのに喜悦が湧き上がるのを押さえられなかった。
ああ、俺はまことやくざ者の仲間入りをしてしまったらしい――。
その事実に栄助は戦慄する。
俺は――人が殺されるところを見て興奮していた。
だが、そんな他人事の立場もこれで終わりだ。栄助たちは隣の宿場に向かった。
街道の脇、半町ほど離れた場所に森があることは聞いていた。
言われた通り足を運ぶと、宿場を臨む木陰に栄助は身を寄せた。みずからの輪郭を消すように体勢を整える。
見よう見まねで仲間たちも似たような姿勢をとった。
真っ直ぐ先の標的を狙うから、銃丸が軌道を描くことは気にしなくていい。
確かに話に聞いていたとおり、宿場までは半町ほどの距離だ。栄助は一町までの距離を目で見て計ることができる。
今は夜間、目標の周辺部に焦点を合わせると目的の物を見ることができる。
そうやって宿場を見張っているうちに街道に無数の人影が現れる。
『親分が乾分を従えて寺から帰ってくる』
と親分からは聞いていた。
栄助は火縄に火をつけて鉄砲を構えた。最初の依頼のように臆病の虫が騒ぐ。それを全力で抑えた。膝放しの姿勢で銃口を標的に向けた。
相手が歩いていることを目算に入れて引金を絞る。
轟音が夜のしじまを打ち破った。とたん、例の親分の頭が血を吹くのが遠目に分かった。
倒れる親分を子分たちが遅れて抱き起すが既に遅い。
「あっちだ」
と指をさす者もいたが、
「ずらかるぞ」
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追手がかかった頃には森を抜けて隣の宿場にもどっていた。
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俺はまた人を殺した――後悔しているはずだというのに喜悦が湧き上がるのを押さえられなかった。
ああ、俺はまことやくざ者の仲間入りをしてしまったらしい――。
その事実に栄助は戦慄する。
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