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「そうだ」
 猪助が首肯すると、
「こっちでさあ」
 一行は案内され濡れ縁のほうに向かうことになった。そこに風格のあるいかにもヤクザの親分といった面立ちの男が座していた。両脇を手下が固めている。後者から殺気が放たれているのが、気配に敏感な栄助にはわかった。
「おまえさんらが、陣借り無宿かい? 俺はここいらをシマにしている伝蔵って者(もん)だ」
「そうさ、お初にお目にかかる、猪助ってもんでさあ」
 親分の名乗りに猪助が応じる。
「なんでも、金を払えば腕前を貸してくれるとか」
「陣借りに倣って陣借り無宿と名乗っておりやす」
「そうか」
 親分は猪助の言葉に一同を順に見つめた。やがて一巡したところでふたたび顔を猪助に向ける。
「聞いてたのと人相が違うようだが」
「頭数が減ったのを補充しやした」
 猪助の言葉に、栄助は内心「え」とつぶやいていた。自分は単純に彼らに加わったのではなく減った人数の補充と知ったからだ。平穏な稼業だとは思わないが、こうも早くも面子の死に触れると薄ら寒いものを感じざるをえない。
「こいつが新入りでさあ」
 猪助が顔をふって栄助を示す。
 それで親分の目線がこちらに向いた。
 熊のそれとは違うが、圧力を感じさせるまなざしを感じて栄助は唾を呑んだ。
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