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「しかし、人殺しが妹の側にいる訳にはいきません」
 栄助の言葉に住職は顔の皺を深くした。
「おまえのような妹思いの兄が人を殺めてしまうとはの。いや、情が深いがゆえの所業か」
 住職が独語じみた言葉を口にする。
 情が深いか――考えもしなかった。人殺しは人殺しでしかない、と栄助は思っていた。だから、住職の言葉には救われた。素直にその思いを相手に告げた。
「わしごときの言葉で救われるならそれは良かった」
「和尚は“ごとき”ではありません、立派なお坊様です」
「立派なら、お前の心のつかえとなり人殺しを止められただろうに」
 住職は悲しげに言った。
「それでも、俺には立派な人です」
 親がいない栄助にとって、住職は家族のように感じられていた。
「されば、わしより餞別だ」
 住職が皺深い手で手にしていた数珠をこちらの手のひらに握らせる。
「和尚、これは」
「持って行け。少しでもお前の助けになってくれるといいが」
 もらえない、と暗に訴えた栄助に和尚は手に力を込めて数珠を持たせた。

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