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 一体、と栄助は内心首を傾げた。女房を手にかけたのは男ではないか。
「間男とふたりになりてえと考えたあいつは、夕餉に毒を盛りやがった。味がおかしい、あいつが食わねえのもおかしいとおれが気づいて子どもには食わねえように言ったんだ」
「なに」
 衝撃の事実に眩暈に似たものを栄助はおぼえた。
 女房を殺したという事実があるとはいえ、先に男が殺されかけたとなれば話が違ってくるではないか。
「おまえ、縛につけ。そうしたら、俺が仔細を村の衆につたえる」
 それが最善の道に思えた。
「うるせえ」
 だが、男がこちらに向けた目には明確に拒絶の意思が宿っていた。
「うるせえ、うるせえ、うるせえ」
 体を起こした男の手には胴に隠れていた鉈が握られている。
 立ち上がり、男はこちらにゆっくり一歩を踏み出した。
「近づくな」
 栄助は震える声で告げ鉄砲を構える。
 だが、二歩、三歩と男は近づいてくる。
「馬鹿野郎」
 栄助は引金に指をかけながら体を震わせた。
 男には同情の余地がある、最前より余計に殺したくない。それに自分が人殺しになるという事実に背筋が寒くなった。
 だが、先行している栄助のもとに助けが来ることはない。
 殺すか、それとも手足を撃つか――。
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