陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 代わりにいたのは三つ歳下の従妹だった。何かと理由をつけてやってくるのだ。栄助のことを好いているようで、口を吸うところまで関係は進んでいる。
「猟の腕は相変わらずみたいね」
 板敷にあがった栄助に白湯を渡しながら彼女は笑みを向けてくる。ふたりで向かい合って腰をおろした。
「それでも今日は調子の悪かったほうだ」
 追及されない程度に彼女の言葉を否定した。
 追及を避けたのは、話題が助左衛門のことになれば話が大きくなりかねないからだ。渡世人などというのは田舎の村では厄介者以外の何者でもない。
「それにしてもおよね、ますます綺麗になったわね」
「いい嫁の貰い手がいるといいんだがな」
 従妹にこたえながら、栄助は違和感をおぼえていた。
 なにか、物足りないような心地をおぼえるのだ。
 その正体を頭のなかで探っていると助左衛門に呼ばれて赴いて旅籠での出来事に起因するようだ。あそこで会った芸と色を売る女、商売女特有の色香が目の前の従妹には当然ながらなかった。それが物足りない。
 なんだか――自分の知るべきでないものを知ってしまった、そんな気がする。
「おまえのとこの村にちょうどいい男はいないか?」
 そんな思いをふり切るためにあえて話題を振る。
「そうねえ、年が釣り合う男はいるけど、栄助の目に叶うのはいないかなあ」
「別に俺は贅沢は言わないぞ」
「そんなこと言って、なんだかんだと理由をあげて断るんじゃない?」
 従妹は悪戯っぽい口調で言う。
「そんなことは」
「およねがお嫁に欲しいのは栄助じゃないの、もしかしてさあ」
 否定しようとすると、従妹が意地の悪い顔で告げた。
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