陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

１４

「あいつを見逃すのはいいとしてもだ」
　そこに彦兵衛の声が聞こえてくる。
「かかわり合いになるのはよせ」
「それは」
「おまえには妹がいるだろう、妹が大事じゃあないのか」
　助左衛門も同じことを別の言い方で言っていた。そこに皮肉を感じて栄助は口もとをゆるませた。
「笑ってる場合か、栄助」
「いや、ちょっと思い出してな」
「なにを暢気な」
　言い訳してみたもののかえって怒られてしまった。
　でもやはり、
「助左の頼みは受け入れられない」
　と栄助は独語じみた言葉を口にする。
「当たり前だ」
　それに彦兵衛が怒った口調で応じた。それがふたたびおかしくて笑いそうになる。だが、彦兵衛本人に睨みつけられなんとかそれを堪えた。