11 / 137
11
しおりを挟む
芸者も栄助もいなくなった部屋で助左衛門は仰向けに転がっていた。
大丈夫さ、あいつなら引き受ける――そんな思いが胸にはあった。
あいつは、昔から頼れる奴だ――。
昔のことだ。村の外れを流れる川で子どもたちだけで泳いでいた。
それがいけなかった。
ひとりの子どもが溺れたのだ。
「助けて」
とくり返し叫ぶ子どもを前に、仲間たちは身が竦んだ。恐ろしいことが起こっているという事実に足が出なかったのだ。
だが、
「今、行くから」
栄助だけは違った。ふんどし姿で川の半ばで溺れる子どものもとに向かったのだ。
栄助が到着するころには例の子どもは沈みかけていた。だが、それがかえってよかったのだろう、助けを求めて暴れて救出に向かった者まで溺れさせずに済んだ。
岸まで抱えるようにして栄助は子どを連れて戻った。そのときには子どもは息をしていなかった。栄助はすぐに子どもの口に自分の口を合わせて息を吹き込んだ。
しばらくすると、
「正気をとり戻した」
「すごい、栄助」
などと子どもの間から歓声があがった。言葉通り、溺れた者が意識をとり戻したのだ。
急激に疲れを意識したのだろう、助けた子どもの横に栄助が大の字に転がる。
「よくやったな、栄助」
助左衛門は自分が動けなかったことに後ろ暗さを感じながら告げた。
「やらなきゃいけないことをやっただけだ」
ぐったりしながらも栄助はほほ笑んだ。
大丈夫さ、あいつなら引き受ける――そんな思いが胸にはあった。
あいつは、昔から頼れる奴だ――。
昔のことだ。村の外れを流れる川で子どもたちだけで泳いでいた。
それがいけなかった。
ひとりの子どもが溺れたのだ。
「助けて」
とくり返し叫ぶ子どもを前に、仲間たちは身が竦んだ。恐ろしいことが起こっているという事実に足が出なかったのだ。
だが、
「今、行くから」
栄助だけは違った。ふんどし姿で川の半ばで溺れる子どものもとに向かったのだ。
栄助が到着するころには例の子どもは沈みかけていた。だが、それがかえってよかったのだろう、助けを求めて暴れて救出に向かった者まで溺れさせずに済んだ。
岸まで抱えるようにして栄助は子どを連れて戻った。そのときには子どもは息をしていなかった。栄助はすぐに子どもの口に自分の口を合わせて息を吹き込んだ。
しばらくすると、
「正気をとり戻した」
「すごい、栄助」
などと子どもの間から歓声があがった。言葉通り、溺れた者が意識をとり戻したのだ。
急激に疲れを意識したのだろう、助けた子どもの横に栄助が大の字に転がる。
「よくやったな、栄助」
助左衛門は自分が動けなかったことに後ろ暗さを感じながら告げた。
「やらなきゃいけないことをやっただけだ」
ぐったりしながらも栄助はほほ笑んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
風を翔る
ypaaaaaaa
歴史・時代
彼の大戦争から80年近くが経ち、ミニオタであった高萩蒼(たかはぎ あおい)はある戦闘機について興味本位で調べることになる。二式艦上戦闘機、またの名を風翔。調べていく過程で、当時の凄惨な戦争についても知り高萩は現状を深く考えていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる