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 芸者も栄助もいなくなった部屋で助左衛門は仰向けに転がっていた。
 大丈夫さ、あいつなら引き受ける――そんな思いが胸にはあった。
 あいつは、昔から頼れる奴だ――。

 昔のことだ。村の外れを流れる川で子どもたちだけで泳いでいた。
 それがいけなかった。
 ひとりの子どもが溺れたのだ。
「助けて」
 とくり返し叫ぶ子どもを前に、仲間たちは身が竦んだ。恐ろしいことが起こっているという事実に足が出なかったのだ。
 だが、
「今、行くから」
 栄助だけは違った。ふんどし姿で川の半ばで溺れる子どものもとに向かったのだ。
 栄助が到着するころには例の子どもは沈みかけていた。だが、それがかえってよかったのだろう、助けを求めて暴れて救出に向かった者まで溺れさせずに済んだ。
 岸まで抱えるようにして栄助は子どを連れて戻った。そのときには子どもは息をしていなかった。栄助はすぐに子どもの口に自分の口を合わせて息を吹き込んだ。
 しばらくすると、
「正気をとり戻した」
「すごい、栄助」
 などと子どもの間から歓声があがった。言葉通り、溺れた者が意識をとり戻したのだ。
 急激に疲れを意識したのだろう、助けた子どもの横に栄助が大の字に転がる。
「よくやったな、栄助」
 助左衛門は自分が動けなかったことに後ろ暗さを感じながら告げた。
「やらなきゃいけないことをやっただけだ」
 ぐったりしながらも栄助はほほ笑んだ。
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