平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「それでよいのか、麿の元を去れば官職を得ることは二度と叶わぬぞ」
「構いませぬ」
「鎮守府将軍殿は落胆なされよう」
「父は父、俺は俺でございます」
 憤然と告げる忠平に将門は淡々とした声で応じる。
「されば、これにて」
 忠平が唸るような声をもらすのに対し一方的に言い置いて将門は座を立ち、外へと向かった。
 門の外には待たせていた福丸と、
「なにゆえ、ここにいる能安」
 がいた。能安はいつものひょうげたような雰囲気はなく、眉間に皺を刻んでこちらに視線を注ぐ。
「おまえが都を出るという卦が出てな。向後の運勢を占ったゆえ、つたえに参った」
「わざわざか」
「わざわざ参らねばならぬほど、凶意の強い卦が出たのだ」
 からかうような将門の言葉に、能安はいつもとは立場を入れ替えて真面目な声で訴える。
「沢天夬(たくてんかい)ともうし、身内の裏切りや手下の背信の所業に注意がいる。また、みずからも判断を誤りがちとなる。多くのことが成就しないままとなるのだぞ」
 能安が自分を思いとどまらせようとしているのだとわかった。
 なれど、な――将門は決意したのだ。兵としての力ひとつで坂東で荘園を守り抜いていこうと。だから、
「ありがとうな、能安。そなたに会えなくなるのは淋しいが、俺は都を去る」
 のだ。そして、従者として福丸を連れて行くことになった。
「存念を変える肚はないか」
「ない」
 能安の問いかけに将門はきっぱりとした口調で応じる。他方、能安は無念げな表情だ。そのようすに将門の胸がかすかに痛む。だが、決意は固かった。何者にも左右されるものではない。
「さらばだ、能安」「ああ、将門」
 互いに別れを告げた。将門は福丸を連れて羅生門の方角に向けて歩き出した。
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