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「剣をひるがえして斬りかかってくる、わかっておるぞ」
 大食が馬鹿にした口調で告げる。
 そうか、それでもいい――のふは凶暴な笑みを浮かべた。その表情の変化に大食はいぶかしげな顔つきをしたが結局、それに注意を払うことはしなかった。
「喰らいつけ」
 刹那、のふは叫ぶ。とたん、霧を割って足往が躍り出た。風を巻いて動いた足往は大食の腕に噛み付く。
 大食の口から凄絶な悲鳴がほとばしり出た。
 刹那、のふは野太刀をひるがえし大食の側面から斬撃を放った。首を狙った一撃、刃を受けて首が横を向いた。「あ、あ、あ」と声をもらしながら大食はその場にうつ伏せに倒れた。無論、彼が倒れきる前に足往は脱していた。
 それでますます雑魚の連中が狼狽(うろた)えるのがわかる。が、補充の者が山頂のほうから無数に現れた。
 のふは視線を走らし将門が交戦中であることを確認する。
 まだ、か――のふは胸のうちでつぶやいた。焦慮が心の中にある。
「足往、吠えろ」
 のふの命にしたがって脇へとやって来ていた足往が力の限り鳴き声をあげる。

   六

 多節棍の遣い手と将門の攻防は膠着状態に入っていた。
 最初のころこそ慣れぬ得物の攻撃に苦戦した将門だが、攻防をくり広げるうちに敵の得物の動きに慣れたのだ。その間(かん)、のふの足往が吠えているのが将門の耳にもしっかりと届いていた。
 が、それはあくまで“慣れた”ということに過ぎない。
 鎖を伸ばせば間合いが伸び、さらに旋回の力も加わる。他方で、鎖で繋がった棒を二本で握ればこちらの攻撃を受け止めるのに十分だ
 だが、何度が撃ち合ううちに将門はひとつの可能性にたどりついていた。
 鯨波がふいに山頂のほうからあがる。
「何事だ」
 安友が狼狽えるのを尻目に将門は何が起きたかを理解していた。
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