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「大事はないよ」
 いらだたしげな声が返ってき。たどうやら、とりあえず懸念する必要はないようだ。
 他方で、大きな杞憂を抱いてもいる。頼慶――おまえはいるのか。
 思った瞬間、真横から僧形の男が霧の中から姿を現した。
 袈裟斬りの軌道の一撃を辛うじて避けた。そう思ったが、脇腹の痛みが失敗り(しくじり)をつたえてくる。
「こたびは容赦はせぬぞ、頼慶」
 将門は自分に言い聞かせるように告げた。と同時に、脇から野太刀切りかかってきた敵のひとりを両手で柄を握って大振りな袈裟斬りで斬殺する。濃い血臭が鼻のあたりにただよった。
「わしは元よりそのつもりだ」
「そのようだな」
 先ほどの仲間との攻防を思い起こして将門は微苦笑を浮かべた。だが、すぐにその笑みを打ち消した。
「この因果な戦いも終いにするぞ」
「おう」
 それぞれが疾風(はやて)と化して距離を詰める。

 霧の中、のふは音を頼りに横薙ぎの一撃をくり返していた。相手が甲(よろい)を身につけていないため面白いように攻撃が当たった。ただし、折れた片腕が刃物を捻じ込まれているように痛い。
 が、みずからが音を立てないようその場に固着したのが今度は仇となる。
 紫電一閃、脇腹に熱をおぼえた。のふが視野の隅で確認すると鉾の穂先がひきもどるのをとらえた。
 視界が閉ざされているのは不利。のふは危険を承知で正面に走った。ある程度の高さになれば霧が途切れている可能性もある。それに霧は急激に晴れつつあった。
 ふいに視界が開ける。刃風一颯、飛来した矢を叩き落した。他にも十数本の矢が飛来したがとっさに放ったせいで狙いが定まっていなかった。
 それよりも脅威は脇からこちらと同じく霧を割って現れた鉾の遣い手だ。
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