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もし地獄なら、彼らは一様に罰を受けているであろうからだ。
「よくもどったな、頼慶」
満身創痍の彼に向かって心のこもっていない口調で安友が声をかけた。
この男は、「忠臣味酒安行の子息」として周囲に持ち上げられるせいで驕慢な性根の持ち主となった。ましてや父は景徳(けいとく)大明神、神に祀られているからだ太宰府周辺は特にその傾向が強かった。そこには、当世の人々の神を崇め奉る姿勢が現われている。
終いには安友は「我こそは景徳第二大明神(けいとくだいにだいみょうじん)」を名乗るにすら至っていた。
そこに大食が割って入る。
「はは、傷だらけだな。それ見たことか」
笑顔を浮かべながらも眼は笑っていない。
刹那、大食は颶風と化した。唐土渡りの獲物を頼慶にふるってきた。
早――頼慶は鎖でつながった棒の武器を弾き飛ばした。が、完全には防ぎきれず棍のひとつがわずかに彼の体にぶつかる。
「なにをする」
頼慶は表情を険しくした。
「なに、戦えないなら邪魔なだけで殺しておこうと存念してな。ましてや、いざとというときに敵に通じても厄介だ」
大食は悪びれるようすなどみじんもなく笑みを浮かべた。
変わった――頼慶は哀愁を瞳に宿しながら思う。道真のしゃれこうべを富士の山頂に移し、摂政がそれを無視できず手の者を動かした。そのことで彼らは一気に驕った。我らは摂政すら動かすことができるのだ、と。
「安友殿、大食ども、貴殿らは弱き者のために戦いに望むという志は忘れていまいな」
頼慶の言葉に返ってきたのは傲慢な笑みだった。
頼慶は内心、ため息をもらした。“力”を手にした者は強くおのれを律しなければならない。だが、憎悪や傲慢がそれを遮った。
凍える体をふるわせながら一党の行く末に暗いものを見た。
「よくもどったな、頼慶」
満身創痍の彼に向かって心のこもっていない口調で安友が声をかけた。
この男は、「忠臣味酒安行の子息」として周囲に持ち上げられるせいで驕慢な性根の持ち主となった。ましてや父は景徳(けいとく)大明神、神に祀られているからだ太宰府周辺は特にその傾向が強かった。そこには、当世の人々の神を崇め奉る姿勢が現われている。
終いには安友は「我こそは景徳第二大明神(けいとくだいにだいみょうじん)」を名乗るにすら至っていた。
そこに大食が割って入る。
「はは、傷だらけだな。それ見たことか」
笑顔を浮かべながらも眼は笑っていない。
刹那、大食は颶風と化した。唐土渡りの獲物を頼慶にふるってきた。
早――頼慶は鎖でつながった棒の武器を弾き飛ばした。が、完全には防ぎきれず棍のひとつがわずかに彼の体にぶつかる。
「なにをする」
頼慶は表情を険しくした。
「なに、戦えないなら邪魔なだけで殺しておこうと存念してな。ましてや、いざとというときに敵に通じても厄介だ」
大食は悪びれるようすなどみじんもなく笑みを浮かべた。
変わった――頼慶は哀愁を瞳に宿しながら思う。道真のしゃれこうべを富士の山頂に移し、摂政がそれを無視できず手の者を動かした。そのことで彼らは一気に驕った。我らは摂政すら動かすことができるのだ、と。
「安友殿、大食ども、貴殿らは弱き者のために戦いに望むという志は忘れていまいな」
頼慶の言葉に返ってきたのは傲慢な笑みだった。
頼慶は内心、ため息をもらした。“力”を手にした者は強くおのれを律しなければならない。だが、憎悪や傲慢がそれを遮った。
凍える体をふるわせながら一党の行く末に暗いものを見た。
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