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「どうやら、五体満足のようだ」
「そう、でもそれだけじゃあ駄目」
 将門の返答にのふは首を真横にふった。将門は疑問の目を彼女に向ける。
「さっきのあの坊主の戦いの折のおまえはなに、まるで木偶だった」
 頼慶が敵として現れたことを想起し将門は胸に痛みをおぼえた。
 と、そこで将門はのふの異常に気づく。のふの片腕が赤く腫れていたのだ。
「そもじ、腕に怪我をしたのか」
「片腕でも戦える」
 くしくものふの返答で彼女が片腕が使えないことが明らかになる。
 一歩間違えば死んでいたのだ、そのことを将門は実感した。先ほどの頼慶の攻撃は本気だった。わずかでも対処を間違えれば頭や手足を砕かれていただろう。
「そうか」
 だが、かける言葉が見つからず将門はその一言で返答を済ませた。
「して、在信のやつは」
 将門は周囲を見回した。
「わからない。もっと下に滑っていったのかも」
 のふはお手上げというふうな声を出す。
「すると」
「ええ、あたいとあんたで行くしかない」
 将門の問いかけにのふは力強い口調で応じた。
「承知した。それでは参ろう」
 将門は立ち上がる。彼とのふと足往のふたりと一匹が頂上を目指して歩き出した。鰐歯が足もとの雪が半分凍った状態の代物をしっかりと突き刺して歩みを助ける。

 霧を割って山頂付近に頼慶はたどりついた。
 ここまで歩いてくるあいだ、此岸を歩いているのか、彼岸を歩いているのか判然としなかった。
 だが、味酒安友どもが無事にいるのを見てここが苦界だと思い知る。
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