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「どうした、小次郎」
 いら立ちをおぼえながらのふは野太刀を抜き放った。
 電光石火、その前に在信が矢を放っている。
 転瞬、頼慶は矢を棒を回転させて弾いた。さらに棒を返して、のふがひそかに襲いかかったのに対処した。刀身が弾かれ刃こぼれが生じる。
 棒が旋回する。のふの足もとを狙ってくるのを飛び退がって避(よ)けた。追撃は頼慶の矢が防ぐ。
「小次郎」
 のふはいらだちを込めて彼を叱責した。
 彼は剣を手にしたまま、木偶のごとくなって立ちすくんでいる。信じがたい光景だ。敵を前にしているとは到底思えない。
「兵の家のためなのだろう」
 だが、今度ののふの言葉には反応した。頼慶と対峙しながらのせりふだ。
「兵の家のため」
「そうだ、兵の家のためだ」
 つぶやく彼の言葉をのふは声を大にしてくり返す。早く正気にもどれ――。
 それで将門に動き出す気配が見えた。そのとき、ひざ下ほどの高さで濁流のごときものが殺到してくる。
 山の民ののふは瞬時にそれが雪崩れだと理解した。彼女が知る由はないが、頼慶の同党が火を燃やすことで雪を溶かして人為的に起こしたものだ。
 が、足もとをすくわれるのを防ぐことはできなかった。
 勢いよく体が仰向けになり、みぞおちに嫌な感触が生まれる。そのまま彼女は雪崩れに呑まれてしまい意識が薄れていった。雪崩れが襲ってきてからここまで一瞬の出来事だ。
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