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「俺様は兵衛少尉(ひょうえのしょうじょう)、源英佐(みなもとのひですけ)様だぞ。鬼が里をうろつくのを許しはせぬ」
 呆然と養父を見下ろしていると先ほどの男が追いかけてきた。
 このときだった。
 兵め――強烈な憤怒が心の底からわきあがったのは。
 元来は、朋友の将門の家が兵だったこともあって兵というものに対して悪い印象は抱いていなかった。
 だが、兵衛少尉がそれをぶち壊しにする。体の隅々にまで兵への怨嗟が行き渡った。兵への憎悪が形をとったのが今の頼慶といってもよかった。

 爾来、わしは兵を好まぬ――頼慶はかすかな物音を耳にして意識を眼前へと集中した。

        ● ● ●

 霧の中に立つ孤影は一瞬、幻かとのふは思った。
 だって、ここは敵が集まっている――。
 それだというのにひとりで向かってくるのは理解を越えていた。だが、
「小次郎、待っていたぞ」
 と声をあげたので、相手が幻影の類ではないとわかった。
 それにしても、『小次郎、待っていたぞ』? のふはそのせりふに疑問をおぼえる。
「頼慶」
 だが、将門もそれに応じた。どうやら既知の間柄のようだ。
「また出会うた、此度は敵だ」
 今度の相手の言葉には将門は口を閉ざす。
 彼は手にしていた棒をふりあげて将門に襲いかかった。
 抜刀一閃、その一撃で将門は相手の攻撃を弾く。が、二の太刀が走らない。
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