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「なにを、慮外な。さような」
「まことだ。そうでなければ、かような折に姿を現す道理はあるまい」
「なれど、それなら何故に寝込みを襲わなんだ」
 頼慶が冷静に言葉をくり返すのとは対照的に将門は声を抑えながらも狼狽はあきらかな目をしていた。
 それよ、と頼慶は言葉をかさねる。
「おぬし、我らに合力せぬか」
 将門は言っていることの意味がわからない、という顔つきをした。
「権門などという外道にしたがうのは止め、公庭の腐った者どもを誅する集まりに加わってはくれぬか」
 頼慶が今述べたことこそ彼の行動原理だ。そのために、俘囚からも多くの者が一党に加わってくれた。ほかには味酒安友一党が仲間に加わっている。摂政の権勢に翳りが現れれば菅家廊下の縁を利用できる味酒安友一党は有効に働くはずだ。
「のう、将門よ」
 将門は苦しげな表情を浮かべてこちらを見返す。しばしののち、ゆっくりと彼は口を動かした。
「でき、ぬ」
「なにゆえだ」
「なんとなれば、朋輩を裏切ることはできぬ」
 頼慶の静かな問いかに低い声で将門はこたえる。
「一徹者のおまえらしいな。されば、向後出会(でお)うたときは敵だ」
 さらば、と言って頼慶はその場を去った。将門が不意討ちを仕掛けてくる気配や、呼び止める気配はなかった。
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