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「公家のごとき時の積み重ねもなく、また上達部に仲間入りすることも考えがたい」
 彼が欲しているのは“道”だった。後世でいう武士道を誰かに示してほしかった。模範を求めているのだ。
「位、官職が低かろうと先祖が得た荘園があるではないか。それを守るために生きる、それでは悪いのか」
「小次郎、そなたはまっすぐだの」
 返答に対し在信は笑みを浮かべた。ただし、嘲笑っているわけではない。将門という男を好ましく思うことからくる表情だ。
「まっすぐもなにも、そなたがむずかしゅう考え過ぎるのだ」
「そうかな」
「さようだ」
 在信の問いかけに将門が大きくうなずいた。
「そもじ、今宵は少しおかしいぞ」
 将門が眉をひそめて声を発する。
「されば、おかしいついでにひとつ手前の生い立ちでも聞いてもらおうか」
 そう告げて、在信は母が自分に何を求めて育てたのかを語った。自分自身でわからない心の働きで話してみたくなったのだ。
「――なれど、手前は剣の腕はいまいちだった」
「卑屈なことをもうすな。なんとなれば、そなたの弓の腕は達者だ。誇ってよい」
 在信の自嘲の言葉に将門はどこか怒ったような声で応じる。
「そなた、まことに良き漢(おとこ)だな」
 在信がふったび笑みを浮かべるのに将門は、
「な、なにを慮外な」
 照れているのがあきらかなようすで狼狽した。そういうところが余計に好ましい、というのだ。
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