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「それでもくそ真面目に物忌みともうして母屋から一歩も出ないのだ」
「はあ、公達ってのは変な者たちだね」
当人たちが必死にやっている行為もそれが当然ではない者にとっては「変な」の一言で済まされてしまうのだから世の中は皮肉に出来ている。
「されど、その変な者たちでも位が一位から三位にかけては四〇丈四方の土地と邸を持っておるぞ。四位と五位はその半分、六位以下はさらにその半分となる」
「同じ公家でもそんなに差があるんだ」
郡司は里では富裕であるといってもたかが知れている、福丸にとって都の貴族の暮らしは未知の世界だろう。
「牛車も偉い者から順に唐車、檳榔毛車(びろうげのくるま)、網代車といった具合に使う物が決められておる」
「なんだか、都の暮らしって息苦しいね」
「息苦しい、息苦しいか」
福丸の反応を在信は面白がるのが口もとに刷かれた笑みで分かった。
とうに将門を説き伏せるのは止めてふたりの話に静かに耳を傾けている。
福丸の無垢ゆえの発言には笑みがもれはしたが、他方で複雑な思いを抱いていた。都にもどればまた刺客を果たす日々が待っている、皇胤である自分が恭しくつかえねばならない、そういったことが脳裏には浮かんでいた。
食後の雑談からしばしののち、在信はみなのもとから少しはなれた。
東海道をすこしもどっていると、おった――彼は四足の影を認める。ただし、足往ではない。
「ほれ、こっちだ」
在信は足を曲げて腰をおろし犬を手招きした。
漆黒の毛をそなえた犬はしばし凝っとこちらを見据えたあと、こちらへと近寄ってくる。
その間、彼が考えていたことは、
“今の主”に仕えつづけるべきかどうか――。
ということだった。
「はあ、公達ってのは変な者たちだね」
当人たちが必死にやっている行為もそれが当然ではない者にとっては「変な」の一言で済まされてしまうのだから世の中は皮肉に出来ている。
「されど、その変な者たちでも位が一位から三位にかけては四〇丈四方の土地と邸を持っておるぞ。四位と五位はその半分、六位以下はさらにその半分となる」
「同じ公家でもそんなに差があるんだ」
郡司は里では富裕であるといってもたかが知れている、福丸にとって都の貴族の暮らしは未知の世界だろう。
「牛車も偉い者から順に唐車、檳榔毛車(びろうげのくるま)、網代車といった具合に使う物が決められておる」
「なんだか、都の暮らしって息苦しいね」
「息苦しい、息苦しいか」
福丸の反応を在信は面白がるのが口もとに刷かれた笑みで分かった。
とうに将門を説き伏せるのは止めてふたりの話に静かに耳を傾けている。
福丸の無垢ゆえの発言には笑みがもれはしたが、他方で複雑な思いを抱いていた。都にもどればまた刺客を果たす日々が待っている、皇胤である自分が恭しくつかえねばならない、そういったことが脳裏には浮かんでいた。
食後の雑談からしばしののち、在信はみなのもとから少しはなれた。
東海道をすこしもどっていると、おった――彼は四足の影を認める。ただし、足往ではない。
「ほれ、こっちだ」
在信は足を曲げて腰をおろし犬を手招きした。
漆黒の毛をそなえた犬はしばし凝っとこちらを見据えたあと、こちらへと近寄ってくる。
その間、彼が考えていたことは、
“今の主”に仕えつづけるべきかどうか――。
ということだった。
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