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「余の者、こやつを矢で射よ。そして、それがしが退いたら全力で遁走する」
 将門と清輔の激闘に息を飲んでいた者たちは、もはや考える余裕もなく弓を引いた。
 飛電と化して矢が飛んでくる。刹那、将門はななめ前に体を投げ出し、即座に膝立ちで剣を構えた。先ほどのせりふが嘘であっても不思議はないからだ。
 が、敵は言葉の通りに別棟の外へと躍り出して行った。
「のふ、怪我はないか」
 将門は相手がもどってくる気配がないのを確かめた上で彼女のほうにちかづいた。
「大事はない」
 そうは言うが、ほおから血が流れている。こちらの視線に気づきのふがほおをぬぐった。
「不意討ちを受けたのだ、この程度で済んで幸いだろう。それより、先ほどのおまえのあれはあんだ。抜くと同時に斬るなんておどろいたぞ」
「夕刻に安丸の言葉を受けて編み出したのだ」
 こんなときに自慢する気にもなれず聞かれるままに淡々とこたえた。
「小次郎、在信はどこに行ったの」
 そこに福丸に近づいてきた声をかけてくる。
「それは俺も気になっていたことだ」
 将門はうなずいたものの、敵がどこかにひそんでいるかもわからないために探しに行くのも躊躇われた。別棟の内なら敵は頭数の多さを生かすことはできない、それに比べ外は敵に断然有利だ。
 いや、ここは山の民を呼ぶべきか――将門は思案する。目立たないよう、普段は離れて行動するようにしているがこういうときこそのふの仲間の手を借りるべきだろう。
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