平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 将門は「福丸、離れておれ」と告げて彼を遠ざけた。
 抜刀一閃、将門は野太刀を抜き放ち様に前方を斬りつけている。しかし、
「失敗(しくじ)った、刃筋が通っておらぬ」
 将門は自分の一撃が失敗したことに顔をしかめた。
 だが、すぐに剣を鞘に収め鞘走らせる。これも刃筋が狂った。
 が、三度目、抜きつけの一撃を将門は放つ。うむ、これで良し――今度は斬撃に狂いは出なかった。
 気づいてしまえば、なんと呆気ないものよ――。
 将門は拍子抜けする思いを抱く。だが、この抜き様に斬る剣、仮に抜き太刀と名づけることにしよう、を遣ったとしても不意討ちなどへの対処は困難を極めるだろう。だが、それでも抜いてから斬る、という挙動に及ぶよりは随分と迅速に対処できるだろう。
 将門は満足げな笑みを浮かべながら抜き太刀をくり返した。
「よかったね、小次郎」
「ああ、礼をもうすぞ、福丸」
 無邪気に言祝ぐ彼に将門は心底からの礼をのべる。

        ● ● ●

 夜のことだ。将門は何かが動く気配を感じて一度目を覚ました。
 起き上がった在信と目が合う。
「手水には付き合わぬぞ」
 寝言に近い口調で冗談を口にした。
 それからどれくらいが経ったのか。ふたたび気配を感じて将門は瞼を開けた。
 とたん、目を見開くことになる。抜き身の刃を複数、目の当たりにすることになったからだ。
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