平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　　　　三

　夕餉のあと、将門は別棟を出て庭に降り立った。
　野太刀を抜き払って転身しての突きに始まり、両手で握っての正面からの斬り合いをひとりで演じる。
　気づくと、自分の修練を待っていたのか福丸がこちらと少し距離を置いて熱心に見つめていた。
「福丸、そもじは何ゆえに剣を学ぶ」
「剣や弓を使えれば目代みたいな悪い奴を退治できるからだ」
　さよう、か、と将門は目を見開かれた思いを抱きながら応じる。
　将門にとっては弓や剣というものは兵として当然の心得だった。それがなんの役に立つかなどという考えはなかったのだ。
「したが、目代を討てば今度は公庭が兵を遣わそうぞ」
「理不尽に一方的に殺されるよりはましだ」
　将門の理屈に福丸は感情を露わにしてこたえる。考えてみれば、命を救ってからこっちここまで己の思いを福丸が剥き出しにしたのは初めてかもしれない。
「したが、のふのごとき山の民のごとく目代のような輩とかかわりを断って生きる生き方もあるぞ」
　それは、と言って福丸は言葉に詰まる。考えていなかったのだ。
「剣を学んだとて、いかほど強くなるかはその者の天稟もある。あの、俊成なる兵がよい例だ。摂政との縁を求め、その末に討ち死にするに至った」
　俊成の名を出すと胸のうちがむかつく。無用な殺生への後ろ暗さがなんとも言えない心地悪さを将門に味わわせていた。