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「将門、福丸が遅れ出した」
在信が告げたとたん、思った通り将門は足を止める。釣られて足を止めた福丸に、
「そこらに隠れていろ」
と彼は告げた。
まさにこやつこそ兵――在信の胸にかすかに黒い感情がわきあがってくる。
「在信、里の者を殺しとうない。手足を狙って矢を射よ」
「承知した」
自身も足を止めていた在信は矢を弓につがえた。とにかく矢で里の衆の手足を射抜いた。だが、矢は有限だ。残りが少なかったこともあってすぐに尽きた。
そして今、同じ里の者に傷つけられて怒り狂った庸民が殺到してきつつある。
都で雅な暮らしを送るはずが――何故こうなった、と在信は己に問わずにはいられない。
在信と同じく弓を射ていた将門が矢が尽きたのを受けて迷わず剣を抜いた。そして、みずからが里の者たちに対して先頭に立つ。その迷いのなさに、ふたたび嫉妬やその他の感情が入り混じったものが在信の心のうちに生まれた。
将門そなたは――そこまで在信が考えたところで、ついに里の衆が肉薄してくる。
刹那、あさっての方向から無数の矢が襲った。どれも見事に急所を外していた。
「なに」在信は矢の飛来してきた方角を見やる。すると、自分たちの側面、三〇丈ほど離れた場所に無数の人影を認めた。
「加勢」なのか――在信は確信が持てない。だが、
「里の衆だ」
というのふの言葉で正体が明らかとなった。
「加勢が参ったぞ」「逃げろ」
数で圧倒している、という思いでいたところに奇襲を受け里の衆はまたたく間に友崩(ともくずれ)を起こした。
のふは仲間の出現にうれしげな顔つきをしていた。
だが、将門は。
在信が告げたとたん、思った通り将門は足を止める。釣られて足を止めた福丸に、
「そこらに隠れていろ」
と彼は告げた。
まさにこやつこそ兵――在信の胸にかすかに黒い感情がわきあがってくる。
「在信、里の者を殺しとうない。手足を狙って矢を射よ」
「承知した」
自身も足を止めていた在信は矢を弓につがえた。とにかく矢で里の衆の手足を射抜いた。だが、矢は有限だ。残りが少なかったこともあってすぐに尽きた。
そして今、同じ里の者に傷つけられて怒り狂った庸民が殺到してきつつある。
都で雅な暮らしを送るはずが――何故こうなった、と在信は己に問わずにはいられない。
在信と同じく弓を射ていた将門が矢が尽きたのを受けて迷わず剣を抜いた。そして、みずからが里の者たちに対して先頭に立つ。その迷いのなさに、ふたたび嫉妬やその他の感情が入り混じったものが在信の心のうちに生まれた。
将門そなたは――そこまで在信が考えたところで、ついに里の衆が肉薄してくる。
刹那、あさっての方向から無数の矢が襲った。どれも見事に急所を外していた。
「なに」在信は矢の飛来してきた方角を見やる。すると、自分たちの側面、三〇丈ほど離れた場所に無数の人影を認めた。
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「加勢が参ったぞ」「逃げろ」
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のふは仲間の出現にうれしげな顔つきをしていた。
だが、将門は。
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