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本来なら忠平の下知には誰か男をあてるべきだった。しかし、のふの剣技は彼ら山の民の里の中でも突出している。それに忠平の下知の話を聞かれたのが運の尽きだった。のふは「面白そうだ」、「あたいが行く」と言って聞かなかったのだ。のふが一度言い出したら聞かないのは里の者なら童でも知っていた。
致し方なくあやつに任せたが――今になって悔やまれる。裏切り者がいるとなれば旅路の危険さは跳ね上がる。
そもそも、なぜ山の民が忠平に協力するのか。それは、彼らが“化外の民”だからだ。祖調庸を収めぬ彼らから、とある国司受領が税を取り立てようとした。愁訴を受けそれを止めさせたのが一の人藤原忠平その人だったのだ。しかし、「借りはいつか返してもらうでおじゃる」と彼は言った。そしてその言葉通り、富士の山で呪詛をする者の始末を山の民たちに下知したのだ。
「いかがなさいますか、里長。のふと合流いたしますか」
物見からもどった男の言葉に里長はしばし思案した。そこに、もうひとり物見に出ていた男がもどる。
「申し上げます」
「ああ」
「将門一党が目代の闇討ちに向かう最中の里の元に襲われた模様」
二人目の物見の言葉に里長は険しい表情を浮かべる。
「人数は?」
「里の男衆がほぼ総出で」
里長の問いかけに物見の男は早口になって報告してきた。
「得物は」
「弓矢と包丁や斧といった塩梅で」
包丁や斧でも大勢で襲いかかってくれば脅威だ。
致し方ないか――里長はひとつため息をつく。そして、
「みなの衆、将門一党の合力に向かう。用意を整えよ」
と全員に聞こえるよう声を張った。それに声を抑えながらも気勢があがった。
「方角は」
「丑の方角でございます」
物見の報告を受け、里長は手下に丑の方角に向かうように下知を飛ばす。
致し方なくあやつに任せたが――今になって悔やまれる。裏切り者がいるとなれば旅路の危険さは跳ね上がる。
そもそも、なぜ山の民が忠平に協力するのか。それは、彼らが“化外の民”だからだ。祖調庸を収めぬ彼らから、とある国司受領が税を取り立てようとした。愁訴を受けそれを止めさせたのが一の人藤原忠平その人だったのだ。しかし、「借りはいつか返してもらうでおじゃる」と彼は言った。そしてその言葉通り、富士の山で呪詛をする者の始末を山の民たちに下知したのだ。
「いかがなさいますか、里長。のふと合流いたしますか」
物見からもどった男の言葉に里長はしばし思案した。そこに、もうひとり物見に出ていた男がもどる。
「申し上げます」
「ああ」
「将門一党が目代の闇討ちに向かう最中の里の元に襲われた模様」
二人目の物見の言葉に里長は険しい表情を浮かべる。
「人数は?」
「里の男衆がほぼ総出で」
里長の問いかけに物見の男は早口になって報告してきた。
「得物は」
「弓矢と包丁や斧といった塩梅で」
包丁や斧でも大勢で襲いかかってくれば脅威だ。
致し方ないか――里長はひとつため息をつく。そして、
「みなの衆、将門一党の合力に向かう。用意を整えよ」
と全員に聞こえるよう声を張った。それに声を抑えながらも気勢があがった。
「方角は」
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物見の報告を受け、里長は手下に丑の方角に向かうように下知を飛ばす。
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