平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「そなたこそ無事でよかった」
「あたいの業前は前に披露したろう」
「確かにな」
 のふが生意気な声音で言うのに将門は微苦笑で応じた。
 将門はどこか羨ましさをこの女人におぼえるようになっている。枠にはまらない自儘さが、“兵”という立場に縛られる己と対照的に思えるのだ。
「小次郎、怪我はない」
 そこに福丸が駆け寄ってきてたずねる。その不安げな顔は、口にしたせりふが心底のものであると裏づけていた。
「ない、血は敵のものだ」
「そうか、よかった」
 将門が腕を広げて見せると福丸は胸の手を当てて息を吐いた。いじらしい仕草に、将門は自然を口角がゆるんだ。
 そこに遅れて在信が近づいてくる。かすかに息があがっていた。
「そなた、結局は弓で戦っておったな。臆したか」
「さにあらず。ただ、得意な得物で戦っただけだ」
 将門がからかうと図星だったらしく在信が顔色を変えた。それを見て、のふも福丸も声を立てて笑う。将門もそれに加わった。くだらないことが楽しく思えた。人を殺してこんなふうに明るい気分でいられたのは初めてだ。
 が、それもすぐに中断させられる。
「誰ぞ、おったぞ」
 叫び声がしたほうをとっさに見やると、民衆直垂姿の男たちが数人、街道側三〇丈余ほど向こうに蠢いていた。遠くからも刃物の剣呑な光は見間違えないようがなかった。
「ちっ、敵との騒擾で目代のもとに向かう里の者を呼びお寄せたか」
「そのようね」
 将門の苦々しい声にのふが決然とした声で応じる。どうやら彼女はすでに戦いを覚悟しているようだ。
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