平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

文字の大きさ
上 下
62 / 136

62

しおりを挟む
 早(はや)――彼女は体を開いている。手鉾の切っ先は虚しく空を切った。即座に野太刀の鋒に片手を添えて刺突をくり出す。肝をつらぬかれた男は凄絶な悲鳴をもらす。
 電光石火、ふたりをほふったのふに鋭い刺突がくり出された。
 体を開いて避けるも反撃する暇(いとま)もなく二撃目、三撃目の突きが放たれる。
 まずい、この者強い――のふは背筋に寒いものをおぼえた。
 刹那、人相の悪い男の喉に矢が貫通する。
 あ、と思って飛来したほうを見やると、野太刀を鞘に収めた在信の姿がすこしはなれたところにあった。
「そなたが敵の気を引け、手前が敵を仕留める」
 凛々しい声で女に囮になれと訴えてくる。まってくもってちぐはぐな男だ。
 だが、
 まあ、いい――。
 とのふは思った。どちらにしろこの場を切り抜けなければ生き残ることはできない。
 最初から伏せていたのだろう、脇のほうから数人の男が手鉾を手に迫ってきた。
 その先頭の男は、風変わりなことに蕨手刀(わらびでとう)を二本手に握っていた。
 刃風一颯、のふが入身をし一撃を加える。瞬間、その一撃が一本の蕨手刀で受け流された。
 とたん、二撃目がくるかと思われたが相手は後ろに退いた。次の瞬間、矢が中空を通り過ぎる。在信の矢がはずれたのだ。
 が、回避の隙をのふは見逃さない。両手で柄を握り大振りな袈裟斬りの一撃を放った。手のひらに確かな感触をおぼえた。敵は肩口から胸元まで深々と斬られていた。だが他にも敵はいる、のふは次の相手と斬り結ぶために剣尖を引き抜いた。
 その間も、残りの敵に矢が突き刺さっている。必ずしも必殺ではないが確実に体をとらえていた。言うだけのことはあるじゃないの――のふは口もとにかすかに笑みを浮かべ次の敵に向かう。

 将門はひとりで複数の敵を相手に立ち回っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

真田幸村の女たち

沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。 なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

<日本書紀演義シリーズ> 太子薨去(たいしこうきょ)622

TKF
歴史・時代
聖徳太子(厩戸皇子)死す! その知らせに蘇我馬子、山背皇子、推古天皇らは激しく動揺。 一方で、妃の一人である橘妃は、悲しみをまぎらわすために、”天寿国繍帳”の名で知られるカーテンをつくったのであった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

リング上のエンターテイナー

knk
青春
私立高校を中心に部活としての女子プロレスが盛んになる中、公立高校で女子プロレス部を立ち上げた主人公・前田陽菜が仲間を集めて全国大会出場を目指す物語。

処理中です...