平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 山の民、敵にまわせば恐るべき相手となる――将門はそんな思いを抱いていた。
 やがて、藪が一面に広がる場所に出る。のふがそこで「ちょうどいい」とつぶやいた。
「万が一、余人が追ってきていた場合の隠れ蓑になるからもぐって」
「もぐるだと」
 のふの指示に将門はやや抵抗をおぼえた。何がいるかもわからない場所に身をひそめるのには本能的な恐怖をおぼえた。
「もし、里の衆が物見でやって来ても見つからないわ、一挙両得でしょ」
 そこまで言われれば従わないわけにはいかない。だが、
「まったく、単(ひとえ)は汚されるし、藪に身を沈めさせられるし、聞いてないぞ」
「無駄口を叩かない、誰ぞに見つかったらどうするの」
 後ろから在信が嘆く声が聞えてきた。とたんに前からのふの叱声が飛ぶ。
 それで慌てて在信が藪に突っ込むのが音で分かった。真後ろの小さめの音は福丸だろう。将門も彼らにつづいた。
 濃い緑の匂いに湿った土の香りが混じる。そして、潜ってみておどろいたのは、藪の中のほうがわずかではあるが見通しがよくなることだ。藪の下だと邪魔な物が視界に存在しなくなるからだろう。
「よし、進むよ」
 というのふの声を合図に将門は中腰をさらに低くしたような姿勢で歩き出した。
 前の崖から落ちた失態がある、のふを見失わないように必死になる。だが、他方でのふに言いつけられていることも守る。たとえば、
 すでにある足跡とおのれの足跡を重ねるように歩む――。
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